TRAVEL
移動の時間も楽しめる、奥山清行デザインの列車で行く東北・北海道。
| Travel, Design | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama text_Naoko Aono editor_Akio Mitomi
旅に出るときに頼りになるのが新幹線。そのうちの秋田新幹線「こまち」(E6系)と山形新幹線「つばさ」(E3系)の新塗装デザインを手がけたのが“フェラーリをデザインした男”として知られる奥山清行だ。2017年運行予定のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」のデザインプロデュースも手がける彼に、東北への旅をもっと楽しくしてくれる鉄道のデザインについて聞きました。
いいトシの大人になっても、新幹線に乗るのはわくわくするもの。中でも特に気分があがるのが、東京〜秋田間を走る秋田新幹線「こまち」(E6系)東京〜新庄間を運行する山形新幹線「つばさ」(E3系)だ。どちらも(後者は外板の新塗装)デザインは奥山清行。ピニンファリーナ社でフェラーリをデザイン、2015年に金沢まで延伸した北陸新幹線(E7系・W7系)も手がけた工業デザイナーだ。
「新幹線には目的地に行くために乗るわけだけれど、駅弁や車窓から見える風景など、乗っているプロセスも楽しんで欲しい。角館なら春には桜並木が見えるし、福島から盛岡方面と、山中を走る山形方面とでも風景が違う。『こまち』と『つばさ』はそんなふうに、新幹線に乗っている時間をもっと楽しめるようにデザインしました」
「新幹線には目的地に行くために乗るわけだけれど、駅弁や車窓から見える風景など、乗っているプロセスも楽しんで欲しい。角館なら春には桜並木が見えるし、福島から盛岡方面と、山中を走る山形方面とでも風景が違う。『こまち』と『つばさ』はそんなふうに、新幹線に乗っている時間をもっと楽しめるようにデザインしました」
2013年4月に新たにデビューした「こまち」(E6系)はそれまでの新幹線になかった、赤の外装を採用して話題になった。
「東北の人間にとって赤は祭りの色であり、夕陽や秋の収穫を象徴する色であって、大げさに言えば魂の色なんです。その赤があまりどぎつくならないように、茜色にしました。乗る前にまず、その赤を見ていただきたい。と言ってもホームからは屋根に近いところにちらっと見えるだけなので、そんなに視覚的にうるさい感じにはならないはずです」
「東北の人間にとって赤は祭りの色であり、夕陽や秋の収穫を象徴する色であって、大げさに言えば魂の色なんです。その赤があまりどぎつくならないように、茜色にしました。乗る前にまず、その赤を見ていただきたい。と言ってもホームからは屋根に近いところにちらっと見えるだけなので、そんなに視覚的にうるさい感じにはならないはずです」
「こまち」(E6系)車内では、グリーン車と普通車とで色のコントラストをつけている。
「普通車はファミリーや団体の方が利用されることが多いので、明るい色使いにしました。茶色い床が“畦道”で、黄色い稲穂をイメージした座席が両側に広がります。カップルやビジネス客が多いグリーン車はもっと落ち着いた雰囲気にするため、床のカーペットは田沢湖をイメージした青に、シートはツイードにしました」
「普通車はファミリーや団体の方が利用されることが多いので、明るい色使いにしました。茶色い床が“畦道”で、黄色い稲穂をイメージした座席が両側に広がります。カップルやビジネス客が多いグリーン車はもっと落ち着いた雰囲気にするため、床のカーペットは田沢湖をイメージした青に、シートはツイードにしました」
「こまち」の特徴はぐんと延びた鼻(ロングノーズ)。実はこの“鼻”に快適な乗り心地の秘密が隠されている。
「その理由はトンネルです。車は日本の道路なら時速数十キロ、トンネルは普通2〜3車線あって、脇に人が通れるだけの広さがあるけれど、秋田新幹線は最高時速300キロ以上になる上にトンネルは人が通ることは想定していないので、車両の分の広さしかない。空気銃の中を発射される弾丸のようなものです」
このため、いわゆる「トンネルドン」と呼ばれる現象が起きる。高速で走る列車がトンネルに出入りするときに起きる衝撃波が騒音を引き起こす。「ロングノーズ」はこのトンネルドンを防ぐために考え出された形なのだ。
「最終的な形態を決めるまでに何度も風洞実験をしました。車体は厚さ3mmのアルミを職人が手でたたいてつくっています。昔の新幹線には厚さ1cmもパテが塗ってあったのですが、今ではほとんどパテなしでここまで精度が出せる。日本でしかできない技術なんです。この『こまち』で僕は、新幹線のデザインはフェラーリより難しいということを学びました」
「その理由はトンネルです。車は日本の道路なら時速数十キロ、トンネルは普通2〜3車線あって、脇に人が通れるだけの広さがあるけれど、秋田新幹線は最高時速300キロ以上になる上にトンネルは人が通ることは想定していないので、車両の分の広さしかない。空気銃の中を発射される弾丸のようなものです」
このため、いわゆる「トンネルドン」と呼ばれる現象が起きる。高速で走る列車がトンネルに出入りするときに起きる衝撃波が騒音を引き起こす。「ロングノーズ」はこのトンネルドンを防ぐために考え出された形なのだ。
「最終的な形態を決めるまでに何度も風洞実験をしました。車体は厚さ3mmのアルミを職人が手でたたいてつくっています。昔の新幹線には厚さ1cmもパテが塗ってあったのですが、今ではほとんどパテなしでここまで精度が出せる。日本でしかできない技術なんです。この『こまち』で僕は、新幹線のデザインはフェラーリより難しいということを学びました」
一方、山形新幹線「つばさ」は最高速度が275kmなので、それまでのE3系の車体をそのまま使うことになり、奥山が外装デザインを変更した。側面を蔵王の雪の白に、屋根と前面にオシドリや食用菊の紫をあしらっている。
この外装でもっとも苦労したのは紫の部分を縁取るように入っている、赤から黄色にグラデーションで変化するラインだ。これは山形の名産である紅花をイメージしたもの。かつて紅花は米などともに北前船で都まで運ばれ、着物の染料などとして珍重された。この紅花、花は黄色いのだが、染める過程で赤くなる。また茎にはトゲがあり、昔は素手で、今は手袋をして花を摘むが、手袋をしていてもトゲがささってしまうのだそう。
「だから紅花の赤は血の赤と言われていたんです。新幹線の車体にこの赤から黄色へのグラデーションを塗るのは正直、無理かなと思っていた。でも仙台の職人チームが手塗りでこれを実現してくれたんです。僕の知る限り、こんな繊細なグラデーション塗装がされている列車は世界でもこれだけではないかと思います」
この外装でもっとも苦労したのは紫の部分を縁取るように入っている、赤から黄色にグラデーションで変化するラインだ。これは山形の名産である紅花をイメージしたもの。かつて紅花は米などともに北前船で都まで運ばれ、着物の染料などとして珍重された。この紅花、花は黄色いのだが、染める過程で赤くなる。また茎にはトゲがあり、昔は素手で、今は手袋をして花を摘むが、手袋をしていてもトゲがささってしまうのだそう。
「だから紅花の赤は血の赤と言われていたんです。新幹線の車体にこの赤から黄色へのグラデーションを塗るのは正直、無理かなと思っていた。でも仙台の職人チームが手塗りでこれを実現してくれたんです。僕の知る限り、こんな繊細なグラデーション塗装がされている列車は世界でもこれだけではないかと思います」
この山形新幹線(福島〜新庄間)で運行中の“のってたのしい列車”が、車内に足湯のある「とれいゆ つばさ」だ。車窓を流れる景色を楽しみながら足湯で疲れを癒せる。この塗装は万年雪をかぶった月山をイメージしたもの。車体の横のカーブで穏やかな山容を表した。
車体が揺れてもお湯がこぼれないのは、車両を製造した川崎重工業がバイクのトランスミッション・オイルのタンクに使った技術を応用したもの。浴槽の端に消波作用のあるルーバーをつけるなどしている。ざっぱーん、と波がたっても濡れたりしないから、心ゆくまでお湯の気持ちよさを堪能してほしい。
車体が揺れてもお湯がこぼれないのは、車両を製造した川崎重工業がバイクのトランスミッション・オイルのタンクに使った技術を応用したもの。浴槽の端に消波作用のあるルーバーをつけるなどしている。ざっぱーん、と波がたっても濡れたりしないから、心ゆくまでお湯の気持ちよさを堪能してほしい。
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