世界最速の美術館〈GENBI SHINKANSEN〉|市川紗椰の鉄道旅
『カーサ ブルータス』2019年8月号より
| Travel, Art, Design | ART RAIL TRIP | photo_Satoshi Nagare text_Chisa Nishinoiri editor_Ai Sakamoto styling_Natsuki Takano hair & make-up_Miyuki Nakamura (Lila)
2020年春、鉄道に関する初めての本を上梓した市川紗椰さん。Casa BRUTUS 2019年8月号では、鉄道マニアで知られる彼女に、乗るだけでアートやデザインを体感できる列車を体験してもらいました。2020年いっぱいで運行停止となる上越新幹線の「GENBI SHINKANSEN(現美新幹線)」を、あらためて彼女の視点から体感してみましょう。
6両編成の各車両内に7組のアーティストによる作品が展示され、「世界最速の芸術鑑賞」と銘打たれた世界でも珍しい観光列車だ。JR路線の完乗を果たし、芸能界きっての鉄道好きとして知られるモデルの市川紗椰さんが捉えた「現美新幹線」の魅力は、鉄道ファンならではの視点が満載だ。
「鉄道を通じた町おこしや資源の再利用といった試みはどの地域でも行われていて、いかに個性を出すか、各社趣向を凝らしています。その中で、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』が開催される新潟エリアという土地柄を生かし、アートに特化させた『現美新幹線』は、お見事です」
「かつて秋田新幹線『こまち』で活躍したE3系を改造しているんです。北陸新幹線にも負けない! という気概で、まったく新しいコンセプトの観光列車としてグレードアップさせているところが素晴らしい。片側の窓を潰して壁一面で覆う大胆さにも驚きました」
車内に乗り込むと、さらに驚きの光景が広がる。15号車では、花びらをつなげたオブジェが時速240kmで走る車内でゆらゆらと揺れ、16号車では茅葺きの民家をモチーフにした透明の殻を背負ったヤドカリと、新潟の美しい里山の映像が流れる。車両ごとに違うアートが次々に現れ、乗客は車内を自由に行き来しながら作品を鑑賞できるのだ。
「車窓を流れる緑の山々や田園、街の風景が、くっきりと、あるいはぼんやりと鏡に映り込んで、移動する車内と外の世界がリンクする。時間帯や季節によっても車内に広がる風景は変化し続け、そのたびに発見があるはず。突然、異世界に召喚されたようなこの感覚は、クセになりそうです」
新潟/越後湯沢〜新潟<br>『現美新幹線』GENBI SHINKANSEN
2016年4月運行開始、2020年12月運行終了予定。E3系を改造した6両編成。11号車は指定席、12〜16号車は自由席。11号車:松本尚、12号車:小牟田悠介、13号車:キッズスペースとカフェ、14号車:石川直樹、15号車:荒神明香、16号車:AKI INOMATAと、各車両に現代美術家の作品を展示している。

市川紗椰
いちかわさや 1987年生まれ。4歳から14歳までアメリカで育つ。16歳の時にモデルデビューし、数々のファッション誌で活動。鉄道、相撲、アニメなど多趣味なことで知られる。現在、モデルのほか『週刊プレイボーイ』での連載や、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』、NHK-FM「×(かける)クラシック」への出演など多方面で活躍中。2020年3月、『鉄道について話した。』(集英社)を上梓。
