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建築家・青木淳が語る〈ロロ・ピアーナ銀座店〉のデザイン。
『カーサ ブルータス』2020年6月号
June 5, 2020 | Fashion, Architecture, Design | PR | text_Jun Ishida
2020年6月にオープンした〈ロロ・ピアーナ銀座店〉。ファサードデザインを手がけた建築家・青木淳が挑戦した、新たなファサード表現とは?
世界最高峰の生地を用いた製品作りで知られるイタリアのラグジュアリーブランド、ロロ・ピアーナ。銀座に誕生する新たな旗艦店のファサードデザインを手がけるのは、建築家の青木淳だ。ブランドビルが立ち並ぶ銀座の街並みの中、空に向かってうねりを見せる細く長いファサードは、控えめながら特殊な輝きを放つ。デザインについて青木に聞いた。
──ロロ・ピアーナというブランドの特徴は何だと考えますか?
製品に触れてまず印象的だったのは、ビキューナやベビーカシミヤといったとても貴重な素材の触感でした。非常に滑らかで、素肌に触れてもチクチクしない、これまで体験したことのないものでした。建物であれ洋服であれ、デザインは普通、視覚に訴えるものですが、ロロ・ピアーナの場合は触覚という、違う感覚に訴えるのが面白い。とはいえ、ファサードをデザインするわけですから、物的に、視覚的に表現しなければなりません。触覚を視覚で表現するという、いつもとは異なる課題が与えられた気がして、とてもチャレンジングな試みだと思いましたね。
──生地の触感から抱いた印象は?
温かみがあるのだけれどシャープで、視覚的に表現するならば光沢に近いと思いました。ブランドのアイコニックな色であるクンメルも、煉瓦色なので温かく重みがあるのだけれど、生地に触れるとツルッとしています。本来共存しそうにない要素が、ロロ・ピアーナでは共存し得るのです。
──そうした特徴をどのようにファサードで表現したのでしょう?
一枚の布が風になびいているイメージが思い浮かびました。造形的にはわかりやすいものでありながら、どういうテクスチャーで作るかが悩ましかったですね。見た目は凛としてシンプルで、あまり派手なそぶりをせず素直にただあるのだけれど、そのあり方に、光沢感や温かさが欲しい。最終的には、ルーバーのファサードにして、ルーバーの側面に色を塗り、下の方はクンメル色で、上に向かって白くしてゆきました。空に溶け込んでいけばと思ったのです。ルーバーはすべて同じ角度の二等辺三角形にしていて、3度ずつ設置する角度を変え、また正面に当たる部分はステンレスミラーを張っています。ミラーなので、日中は前に建つ建物や空が映ります。
──ロロ・ピアーナというブランドの特徴は何だと考えますか?
製品に触れてまず印象的だったのは、ビキューナやベビーカシミヤといったとても貴重な素材の触感でした。非常に滑らかで、素肌に触れてもチクチクしない、これまで体験したことのないものでした。建物であれ洋服であれ、デザインは普通、視覚に訴えるものですが、ロロ・ピアーナの場合は触覚という、違う感覚に訴えるのが面白い。とはいえ、ファサードをデザインするわけですから、物的に、視覚的に表現しなければなりません。触覚を視覚で表現するという、いつもとは異なる課題が与えられた気がして、とてもチャレンジングな試みだと思いましたね。
──生地の触感から抱いた印象は?
温かみがあるのだけれどシャープで、視覚的に表現するならば光沢に近いと思いました。ブランドのアイコニックな色であるクンメルも、煉瓦色なので温かく重みがあるのだけれど、生地に触れるとツルッとしています。本来共存しそうにない要素が、ロロ・ピアーナでは共存し得るのです。
──そうした特徴をどのようにファサードで表現したのでしょう?
一枚の布が風になびいているイメージが思い浮かびました。造形的にはわかりやすいものでありながら、どういうテクスチャーで作るかが悩ましかったですね。見た目は凛としてシンプルで、あまり派手なそぶりをせず素直にただあるのだけれど、そのあり方に、光沢感や温かさが欲しい。最終的には、ルーバーのファサードにして、ルーバーの側面に色を塗り、下の方はクンメル色で、上に向かって白くしてゆきました。空に溶け込んでいけばと思ったのです。ルーバーはすべて同じ角度の二等辺三角形にしていて、3度ずつ設置する角度を変え、また正面に当たる部分はステンレスミラーを張っています。ミラーなので、日中は前に建つ建物や空が映ります。
──空に向かってうねるような形はどのように作り出したのですか?
ルーバーを設置する面自体をカーブさせています。ファサードは、中央通り沿いの高さ制限に合わせ56mあるのですが、建物の部屋としての構造は21mまでで、その上は空洞になっているため、こうした造形が可能になりました。
──昼と夜で異なる表情を見せるのも魅力の一つですね。
昼と夜で見え方を変えるのは、ブランドの建物をデザインする際に必ず考慮しなければならないことです。ロロ・ピアーナでは、ルーバーの設置面に布を張り、夜は後ろから光を当て、建物自体を発光させています。僕が一番気に入っているのは黄昏(たそがれ)時で、昼から夜の景色へと変わる微妙な変化を見ることができます。日中はルーバー正面のミラー部分が一番明るくてキラキラしているのですが、夜になると後ろから当てている光の方が優位になり、日中は暗かった奥の部分が明るくなり、逆にミラーはシルエットと化し黒っぽくなります。ファサードの側面の一番上に設置したロゴも、昼間は黒いのですが、夜は白く見えます。
──デザインする上で、銀座の街並みは意識しましたか?
銀座の街は、ヨーロッパのように建物の高さを揃えた街区を作ろうとしています。周りに大声でしゃべろうとする建物が多いからこそ、寡黙に立つことで、逆にその寡黙さが目立つのではないかと考えました。誰もが気がつくものではないけれど、ちょっと上を見ると、不思議なことをしている。その奥ゆかしさは銀座だからこそなし得たのだと思います。
ルーバーを設置する面自体をカーブさせています。ファサードは、中央通り沿いの高さ制限に合わせ56mあるのですが、建物の部屋としての構造は21mまでで、その上は空洞になっているため、こうした造形が可能になりました。
──昼と夜で異なる表情を見せるのも魅力の一つですね。
昼と夜で見え方を変えるのは、ブランドの建物をデザインする際に必ず考慮しなければならないことです。ロロ・ピアーナでは、ルーバーの設置面に布を張り、夜は後ろから光を当て、建物自体を発光させています。僕が一番気に入っているのは黄昏(たそがれ)時で、昼から夜の景色へと変わる微妙な変化を見ることができます。日中はルーバー正面のミラー部分が一番明るくてキラキラしているのですが、夜になると後ろから当てている光の方が優位になり、日中は暗かった奥の部分が明るくなり、逆にミラーはシルエットと化し黒っぽくなります。ファサードの側面の一番上に設置したロゴも、昼間は黒いのですが、夜は白く見えます。
──デザインする上で、銀座の街並みは意識しましたか?
銀座の街は、ヨーロッパのように建物の高さを揃えた街区を作ろうとしています。周りに大声でしゃべろうとする建物が多いからこそ、寡黙に立つことで、逆にその寡黙さが目立つのではないかと考えました。誰もが気がつくものではないけれど、ちょっと上を見ると、不思議なことをしている。その奥ゆかしさは銀座だからこそなし得たのだと思います。
〈Loro Piana Ginza store〉
テキスタイルアクセサリーと革製品(1F)、レディス(2F)、メンズ(3F)と展開。VIPルーム(4F)ではメイド・トゥ・メジャーやメイド・トゥ・オーダーなどを行う。●東京都中央区銀座3-5-8 TEL 03 5579 5181 11〜19時。
JUN AOKI
1956年生まれ。磯崎新アトリエを経て、1991年青木淳建築計画事務所設立。住宅、公共建築をはじめ、国内外のルイ・ヴィトンの店舗も手がける。最新作に〈京都市京セラ美術館〉(西澤徹夫と共同設計)、〈ルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋〉。著作に『フラジャイル・コンセプト』。