DESIGN
古陶を思わせる、侘びた色と素朴なカタチ。タナカシゲオ陶展@木と根|輪湖雅江の器とごはん
November 29, 2020 | Design, Food | casabrutus.com | photo_Makoto Ito text_Masae Wako
器は料理を盛ってこそ! 人気作家の最新作を発表する個展に合わせて、作家本人にも料理をつくってもらっちゃおう……という無茶ぶり企画7回目。奈良・明日香村の古民家に暮らし、昔ながらの“紐づくり”と薪窯焼成で器をつくっている陶芸家、タナカシゲオさんを訪ねました。ふだんの何気ない料理も品よく見せる器は、12月15日から始まる京都〈木と根〉の個展にて!
色鮮やかな緑の野菜が映えるのはもちろんだけれど、サトイモのから揚げやキノコのナムルみたいな素朴な料理をのせた姿こそが、この器の真骨頂。古陶磁を思わせる風合いと侘びた色は、料理を盛ることでいっそう品よく味わい深く目にうつる。
高松塚壁画や石舞台古墳など飛鳥時代の史跡が残る奈良県・明日香村で、築280年の古民家に暮らしている陶芸家のタナカシゲオさん。約150坪の広い敷地には、骨太な梁や柱に支えられた母屋や蔵や離れがあり、藁のブロックを積み上げる“ストローベイル工法”で自作した小さな工房も建っている。
高松塚壁画や石舞台古墳など飛鳥時代の史跡が残る奈良県・明日香村で、築280年の古民家に暮らしている陶芸家のタナカシゲオさん。約150坪の広い敷地には、骨太な梁や柱に支えられた母屋や蔵や離れがあり、藁のブロックを積み上げる“ストローベイル工法”で自作した小さな工房も建っている。
京都生まれのタナカさんが、「薪の窯で器が焼ける土地を探していて、ネットで見つけた」というこの家に引っ越してきたのは13年前。昔から絵を描くのも粘土細工も好きだったが、やがて古いものへの興味がふくらんだ。桃山時代の茶陶や韓国李朝の陶磁器など、古い時代の焼物に惹かれて作陶を始めたのは31歳の時。「京都のカルチャーセンターでちょこっとだけ習って、あとはほぼ独学です」。最初の個展は40歳を超えてから……と決して早くはないけれど、それが韓国骨董の名店・京都の〈川口美術〉で開かれたと聞けば、凄い!と唸るしかない。
タナカさんがつくる器は、白瓷(白磁)、堅手(かたで)、焼締、粉引、オンギ、黒伊羅保(くろいらぼ)などさまざまだ。「堅手」は李朝のころからつくられていた焼物で、白瓷に近いけれど、釉薬の感じや土味が“硬い”ところからそう呼ばれるようになった。「オンギ」は鬼板という鉱物を使った黒釉の器。韓国ではキムチを漬ける黒釉の甕などをオンギと呼び、タナカさんはその呼び名にならっているのだとか。「黒伊羅保」は、高麗茶碗などに用いられた伊羅保釉を使ったもの。ざらっとして心地いい手触りと、釉薬の掛かり具合による濃淡が、なんとも滋味深くて素敵なのだ。
……というようにタナカさんの器には、いにしえの作り手への敬意や憧れが宿っている。土は日本のものを使っているが、目指す古陶の風合いを出すために韓国の土をブレンドすることも。釉薬は灰や長石を使って自らつくり、絵付け用の青い顔料・呉須(ごす)も自分で調合する。成形は、紐状にした粘土をぐるぐる巻きながら積み上げていく“紐づくり”。焼成は、家から少し離れた畑の中にある穴窯や倒炎式の薪窯で行っている。タナカさんの器の、自然な柔らかさやピュアでおおらかな美しさは、そういう昔ながらのやり方から生まれるものだったのか、としみじみ納得。
タナカさんがつくる器は、白瓷(白磁)、堅手(かたで)、焼締、粉引、オンギ、黒伊羅保(くろいらぼ)などさまざまだ。「堅手」は李朝のころからつくられていた焼物で、白瓷に近いけれど、釉薬の感じや土味が“硬い”ところからそう呼ばれるようになった。「オンギ」は鬼板という鉱物を使った黒釉の器。韓国ではキムチを漬ける黒釉の甕などをオンギと呼び、タナカさんはその呼び名にならっているのだとか。「黒伊羅保」は、高麗茶碗などに用いられた伊羅保釉を使ったもの。ざらっとして心地いい手触りと、釉薬の掛かり具合による濃淡が、なんとも滋味深くて素敵なのだ。
……というようにタナカさんの器には、いにしえの作り手への敬意や憧れが宿っている。土は日本のものを使っているが、目指す古陶の風合いを出すために韓国の土をブレンドすることも。釉薬は灰や長石を使って自らつくり、絵付け用の青い顔料・呉須(ごす)も自分で調合する。成形は、紐状にした粘土をぐるぐる巻きながら積み上げていく“紐づくり”。焼成は、家から少し離れた畑の中にある穴窯や倒炎式の薪窯で行っている。タナカさんの器の、自然な柔らかさやピュアでおおらかな美しさは、そういう昔ながらのやり方から生まれるものだったのか、としみじみ納得。
「食べるのが好きだから料理も好き」と言うタナカさんと佐智子さんは、二人でいっしょに調理することも多いそう。タナカさんが“ひね鶏”のタタキを切り分けている傍らで佐智子さんが和え物をつくり、佐智子さんがサトイモを揚げ始めたところで、タナカさんが鰹節と削り器を取り出して……と、それぞれに分担しながら調理はサクサクと進んでいく。
「毎週金曜日に近所でビオマルシェが開かれるんです。明日香村の畑で採れるオーガニックの野菜や完全無農薬のお米、平飼いの鶏の卵などをそちらで買っています」とタナカさん。台所を見回せば、ごはんを炊く羽釜に自作の土鍋、台湾の電気鍋もアルミアルマイトの鍋もあって、それだけで日々料理を楽しみ尽くしていることがうかがえる。聞けば、ポン酢やソース、焼き鳥のタレまですべて自分たちでつくっているのだとか。「そのほうが自分好みの味になるからという、とても単純な理由です」
「毎週金曜日に近所でビオマルシェが開かれるんです。明日香村の畑で採れるオーガニックの野菜や完全無農薬のお米、平飼いの鶏の卵などをそちらで買っています」とタナカさん。台所を見回せば、ごはんを炊く羽釜に自作の土鍋、台湾の電気鍋もアルミアルマイトの鍋もあって、それだけで日々料理を楽しみ尽くしていることがうかがえる。聞けば、ポン酢やソース、焼き鳥のタレまですべて自分たちでつくっているのだとか。「そのほうが自分好みの味になるからという、とても単純な理由です」
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illustration Yoshifumi Takeda
Masae Wako
わこ まさえ 編集者・ライター。インテリアと手仕事と建築と日本美術にまつわる雑誌の仕事が中心。カーサブルータス本誌では〈かしゆか商店〉番頭。