CULTURE
ポール・ケアホルムの名言「椅子が素材や道具の個性と…」【本と名言365】
August 6, 2024 | Culture, Design, Movie | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_Yoshinao Yamada illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。デンマーク家具においてミニマリズムを追求したデザイナー、ポール・ケアホルム。日本初の展覧会が開催中だが、その図録から貴重な言葉を抜粋する。研ぎ澄まされた美しさをもつ家具はどのように生まれたのか。
椅子が素材や道具の個性と共鳴する自然な形を持つこと。そのことが構築的に明らかとなるようにしなければならない。
デンマーク家具を代表するデザイナーの一人、ポール・ケアホルム。しかしその名作群は、デンマーク家具の系譜から見ると異色の存在だ。
デンマークは伝統的に家具製作が盛んであったが、20世紀に入ると木工職人(マイスター)と家具職人組合のもとで家具職人が育成されるようになる。ここで優れたデザインとそれを実現する技術が育まれたが、同時に数多の優れたデザイナーを輩出する。デンマーク家具の黄金期を築いたハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンはまさに職人として技術を磨いた後にデザイナーとなった人物だが、ケアホルムもまた木工を学んだあとにデザインを学んだ。
15歳で木工家具職人に弟子入りしたケアホルムは、マイスター資格を取得後にコペンハーゲンの美術工芸学校へ入学。そこで、ウェグナー、シドニー・オペラハウスを設計したヨーン・ウッツォンらに学んだ。卒業時にケアホルムが発表した〈PK25〉は一枚のスチールに切り込みを入れることで接合部をなくしたフレームにフラッグハリヤードを張った椅子だ。現在もフリッツ・ハンセンが製造を続ける。
デンマーク家具において主流である木工技術ではなく工業技術に目を向けたこと。そして学生時代の作品が現在まで製造されていること。ともに大きな驚きを与えるものだが、ケアホルムは後年のインタビューで「椅子が素材や道具の個性と共鳴する自然な形を持つこと。そのことが構築的に明らかとなるようにしなければならない」と語っている。その後も金属を巧みに扱いながらシャープなフォルムの名作を次々実現していった。ケアホルムの家具は同じくデンマークのアルネ・ヤコブセンやヴァーナー・パントンのように完全なる工業デザインではない。ウェグナーやモーエンセンのような手工業的な要素を織り交ぜ、両者の中間をいくことで独自のデザインと美意識を貫いた。
晩年、ケアホルムは木製家具に取り組んでいる。自身がデザインした金属製のアームチェア〈PK12〉を木製にリデザインした〈PK15〉では、素材の違いからディテールを変化させた。ルイジアナ美術館の音楽ホールのためにデザインした椅子もまた木製だ。ケアホルムは51歳で病死しており、起承転結の転の部分で人生を終えたとも言えるだろう。遺した言葉は非常に少ないが、そのデザインから素材に対して深く考え抜いた人物であることは十二分に伝わってくる。もう少し長く活動していたらどんなデザインを生み出していたのか……。
デンマーク家具を代表するデザイナーの一人、ポール・ケアホルム。しかしその名作群は、デンマーク家具の系譜から見ると異色の存在だ。
デンマークは伝統的に家具製作が盛んであったが、20世紀に入ると木工職人(マイスター)と家具職人組合のもとで家具職人が育成されるようになる。ここで優れたデザインとそれを実現する技術が育まれたが、同時に数多の優れたデザイナーを輩出する。デンマーク家具の黄金期を築いたハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンはまさに職人として技術を磨いた後にデザイナーとなった人物だが、ケアホルムもまた木工を学んだあとにデザインを学んだ。
15歳で木工家具職人に弟子入りしたケアホルムは、マイスター資格を取得後にコペンハーゲンの美術工芸学校へ入学。そこで、ウェグナー、シドニー・オペラハウスを設計したヨーン・ウッツォンらに学んだ。卒業時にケアホルムが発表した〈PK25〉は一枚のスチールに切り込みを入れることで接合部をなくしたフレームにフラッグハリヤードを張った椅子だ。現在もフリッツ・ハンセンが製造を続ける。
デンマーク家具において主流である木工技術ではなく工業技術に目を向けたこと。そして学生時代の作品が現在まで製造されていること。ともに大きな驚きを与えるものだが、ケアホルムは後年のインタビューで「椅子が素材や道具の個性と共鳴する自然な形を持つこと。そのことが構築的に明らかとなるようにしなければならない」と語っている。その後も金属を巧みに扱いながらシャープなフォルムの名作を次々実現していった。ケアホルムの家具は同じくデンマークのアルネ・ヤコブセンやヴァーナー・パントンのように完全なる工業デザインではない。ウェグナーやモーエンセンのような手工業的な要素を織り交ぜ、両者の中間をいくことで独自のデザインと美意識を貫いた。
晩年、ケアホルムは木製家具に取り組んでいる。自身がデザインした金属製のアームチェア〈PK12〉を木製にリデザインした〈PK15〉では、素材の違いからディテールを変化させた。ルイジアナ美術館の音楽ホールのためにデザインした椅子もまた木製だ。ケアホルムは51歳で病死しており、起承転結の転の部分で人生を終えたとも言えるだろう。遺した言葉は非常に少ないが、そのデザインから素材に対して深く考え抜いた人物であることは十二分に伝わってくる。もう少し長く活動していたらどんなデザインを生み出していたのか……。
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