CULTURE
【本と名言365】ピエール・エルメ|「好奇心という素晴らしい欲望が、…」
March 15, 2024 | Culture, Food | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_Yoko Fujimori illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。その芸術性と創造性の高さから「パティスリー界のピカソ」と評されるピエール・エルメが大いに語る、人生の根幹とは。
好奇心という素晴らしい欲望が、絶えず創造力を養ってくれる
ピエール・エルメ。甘いものにさほど詳しくない人でも、彼の名は聞いたことがあるだろう。あのピンク色のマカロンにバラの花びらをひとひら載せた、世にも美しくロマンチックなケーキ「イスパハン」の生みの親であり、「ヴォーグ」誌で「パティスリー界のピカソ」と評された世界的パティシエの一人だ。
20代でシェフパティシエとなった名門「フォション」で、香りも味わいも多彩な色とりどりのマカロンを発表し、それだけでなく幼少期の故郷の森での体験から「果実は最もおいしい時期に味わうべき」と“季節の新作”をパティスリーに導入した。今では常識となったこの概念も、1年中同じものを味わえることが良しとされていた当時のパリでは革新的なことだったのだ。素材も技術も最高を貫き、宝石のように美しく高級なお菓子を宝飾店のような空間で提供するという「オート・パティスリー(高級菓子)」のスタイルをいち早く確立したのも彼である。
自伝を読んで感じるのは、いかなるジャンルの優れた作り手もそうであるように、ピエール・エルメも実にエネルギッシュで「勤勉」なことだ。
前述の「イスパハン」が、フランボワーズとライチ、薔薇を合わせた偉大な発明と言われるように、名作となるレシピは、素材選びから配合、調理時間などの微調整を果てしなく繰り返して構築される。そこに費やす膨大な労力を、彼は楽しい時間と語るのである。
「若い頃から自分を突き動かしてきたこの情熱を持てることは幸運です。仕事への情熱を育み、共有することが豊かな成功した人生へと進む原動力になる。このことが愛し、食べ、学び、旅をし、発見し、交流することへの貪欲なまでの渇望となってくれる」と。
確かに、彼はワインから香水、アート、文学、演劇、ファッション、建築など幅広く探求する識者でもある。これも「抑えきれない好奇心からであり、それらは全て菓子や料理の道と繋がっているから」なのだ。
何かの道で成し遂げたいと思うなら、それ以外の教養を深めるべし、とよく言われるが、エルメはパリに上京した14歳の時から常にその実践者だった。
最後に、こんな名言も。「過去と思い出は全く違う。過去はそれに伴う重苦しさを引き受けながら後ろを振り返ることであり、思い出はそれがもたらす豊かさや教訓によって人となりを形成するもの」。
思い出を豊かな発想の糧にし、未来にしか興味を持たない、と語るエルメ。尽きせぬ探究心を創造の根幹とするパティシエの自伝は、驚くほど示唆に富んでいる。
ピエール・エルメ。甘いものにさほど詳しくない人でも、彼の名は聞いたことがあるだろう。あのピンク色のマカロンにバラの花びらをひとひら載せた、世にも美しくロマンチックなケーキ「イスパハン」の生みの親であり、「ヴォーグ」誌で「パティスリー界のピカソ」と評された世界的パティシエの一人だ。
20代でシェフパティシエとなった名門「フォション」で、香りも味わいも多彩な色とりどりのマカロンを発表し、それだけでなく幼少期の故郷の森での体験から「果実は最もおいしい時期に味わうべき」と“季節の新作”をパティスリーに導入した。今では常識となったこの概念も、1年中同じものを味わえることが良しとされていた当時のパリでは革新的なことだったのだ。素材も技術も最高を貫き、宝石のように美しく高級なお菓子を宝飾店のような空間で提供するという「オート・パティスリー(高級菓子)」のスタイルをいち早く確立したのも彼である。
自伝を読んで感じるのは、いかなるジャンルの優れた作り手もそうであるように、ピエール・エルメも実にエネルギッシュで「勤勉」なことだ。
前述の「イスパハン」が、フランボワーズとライチ、薔薇を合わせた偉大な発明と言われるように、名作となるレシピは、素材選びから配合、調理時間などの微調整を果てしなく繰り返して構築される。そこに費やす膨大な労力を、彼は楽しい時間と語るのである。
「若い頃から自分を突き動かしてきたこの情熱を持てることは幸運です。仕事への情熱を育み、共有することが豊かな成功した人生へと進む原動力になる。このことが愛し、食べ、学び、旅をし、発見し、交流することへの貪欲なまでの渇望となってくれる」と。
確かに、彼はワインから香水、アート、文学、演劇、ファッション、建築など幅広く探求する識者でもある。これも「抑えきれない好奇心からであり、それらは全て菓子や料理の道と繋がっているから」なのだ。
何かの道で成し遂げたいと思うなら、それ以外の教養を深めるべし、とよく言われるが、エルメはパリに上京した14歳の時から常にその実践者だった。
最後に、こんな名言も。「過去と思い出は全く違う。過去はそれに伴う重苦しさを引き受けながら後ろを振り返ることであり、思い出はそれがもたらす豊かさや教訓によって人となりを形成するもの」。
思い出を豊かな発想の糧にし、未来にしか興味を持たない、と語るエルメ。尽きせぬ探究心を創造の根幹とするパティシエの自伝は、驚くほど示唆に富んでいる。
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