CULTURE
料理人・野村友里と花屋・壱岐ゆかり。日本を旅して見つめ直した20年とこれから。
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原宿の同じ敷地内で〈restaurant eatrip〉と〈the little shop of flowers〉を営む野村友里と壱岐ゆかり。お互いの創作を20年以上にわたり見つめてきた2人が、ともに旅をし、刺激しあいながら、花と料理で活動の記録を綴りました。
表紙には青々としたトマトの断面。裏表紙には、朽ちて土に還っていく野菜たち。生きることと死にゆくことの表裏一体さを、美しい布張りの装丁が一筋の物語のように見せる。
この本に編まれているのは、「料理」と「花」だ。料理を担当するのは〈eatrip〉を主宰する野村友里。花を扱うのは同じ敷地内で〈the little shop of flowers〉を営む壱岐ゆかり。出会ってから20年以上、互いの創作活動を見守ってきた彼女たちが、このたび初めて共著としてそれぞれの世界を共有することになった。ずっしりと重い本を開くと、彼女たちが生み出す潔い一瞬の美に圧倒される。
この本に編まれているのは、「料理」と「花」だ。料理を担当するのは〈eatrip〉を主宰する野村友里。花を扱うのは同じ敷地内で〈the little shop of flowers〉を営む壱岐ゆかり。出会ってから20年以上、互いの創作活動を見守ってきた彼女たちが、このたび初めて共著としてそれぞれの世界を共有することになった。ずっしりと重い本を開くと、彼女たちが生み出す潔い一瞬の美に圧倒される。
本は4つの章で構成されている。金沢、根室、鎌倉、軽井沢という彼女たちに縁のある土地を4つの季節で訪れ、そこで出会った食材で料理をし、見つけた植物を手にとり、生け、料理に添える。各々の章末にはそのとき感じたことがエッセイとして綴られ、旅先で生み出した料理のレシピも掲載されている。写真集のようで、2人の旅を記録した紀行本で、レシピ本。この本を一言で「こんな本だ」と表現するのはとても難しい。様々な側面をもつこの特別な本を、野村はどんな思いで作ることを決めたのだろうか。
「私たちが20年一緒に活動をしてきたことをふまえて、自分たちが今どこにいるかを形にしたかったんです。これからどういう方向にいくか、何に向かっていきたいか。それぞれにキャリアは積んできたけれど、長くやっているからわかることもあるし、逆にわからなくなることもあります。そのあたりをクリアにするには、純粋に『いいな』というものを突き詰めて何かに残す必要があると思いました」(野村友里)
「私たちが20年一緒に活動をしてきたことをふまえて、自分たちが今どこにいるかを形にしたかったんです。これからどういう方向にいくか、何に向かっていきたいか。それぞれにキャリアは積んできたけれど、長くやっているからわかることもあるし、逆にわからなくなることもあります。そのあたりをクリアにするには、純粋に『いいな』というものを突き詰めて何かに残す必要があると思いました」(野村友里)
旅する時は、日程と場所以外は何も決めなかった。あらかじめ決められたものではなく、その場で出会うものとの対話を大事にしたかったからだという。ときには十分な施設もない環境で、野村は自ら炭をおこして調理をし、壱岐は地面に落ちた葉や枝をあしらいにした。そんな即興性が絡み合ったものだからこそ、写真からはまるで香りたつほどの素材の力強さが感じられる。
写真もユニークだ。いわゆるレシピ本や紀行本とはまったく違う、斬新な角度から料理と花を切り取った写真家は水谷太郎。数多のファッション写真を撮ってきた彼も、その手法を料理や花に向けるのはとても新鮮な試みだったという。
写真もユニークだ。いわゆるレシピ本や紀行本とはまったく違う、斬新な角度から料理と花を切り取った写真家は水谷太郎。数多のファッション写真を撮ってきた彼も、その手法を料理や花に向けるのはとても新鮮な試みだったという。
「花も料理も、消えていくもの。だから美しいんです」と野村は言う。旅した土地の空気を感じて2人のクリエイターが次々に生み出していく瞬間の美を、余白をもって大胆に切り取る水谷の写真。その「余白」が、消えゆく素材の前後の物語を静かに語っていく。
「ふだんは『こういうことを伝えたい』とか『こういうことがあるから』ということで物事を形にしていきます。でも今回はみんなが積み重ねてきた経験から、旅をして、内側から出てくるものを形にしたらどうなるか? ということを楽しみながら作った本です。私も壱岐さんも他のみんなも、最後までどんな本になるかわかりませんでした。だからこそ、読んでくださる方にも新たな発見があると思います。この本を見て何かを感じてくれることが、どなたかの"Tasty of Life"になってくれたらいいなと願っています」(野村友里)
様々なジャンルのクリエイターたちの純粋な「これがいい」という気持ちが、互いに交差し、織りなした本。めくるたびに自分の中の新たな気持ちに触れることに驚くはずだ。
様々なジャンルのクリエイターたちの純粋な「これがいい」という気持ちが、互いに交差し、織りなした本。めくるたびに自分の中の新たな気持ちに触れることに驚くはずだ。
『TASTY OF LIFE』
著者:野村友里、壱岐ゆかり。ブックデザイン:峯崎ノリテル、写真:水谷太郎、編集:石田エリ。青幻舎刊。総頁:212頁。 5,000円 。

野村友里
のむら・ゆり/料理人。〈eatrip〉主宰。おもてなしの教室を開く母の影響を受けて料理の道に。主な活動にケータリングの演出、料理教室、雑誌の連載、ラジオのパーソナリティなど。近著に、『春夏秋冬おいしい手帖』(マガジンハウス刊)、『Tokyo Eatrip』(講談社刊)がある。

壱岐ゆかり
いき・ゆかり/花屋。〈the little shop of flowers〉主宰。日々の小さな贈りものの提案から展示会やパーティの装飾・演出などを独自のスタイルで展開。2016年、原宿〈6(ROKU)BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS〉内に2号店をオープン。2019年11 月、〈渋谷パルコ〉にて花とバーの3号店をオープン予定。
