ART
日本が置いてきた豊かさの宝庫、キューバとの交流展。
May 30, 2018 | Art | casabrutus.com | photo_Chie Sumiyoshi, Luis Joa, Maité Fernández Barroso text_Chie Sumiyoshi
国交正常化と規制緩和で今後の変化に注目が集まるキューバのアート。ハバナで滞在制作した日本人作家の作品と共に紹介する展覧会の帰国展が東京・青山の〈スパイラル〉で開催される。
近年の政治的開放と共に世界の注目を集めるカリブ海の島国キューバ。2018年は日本人のキューバ移住120周年を記念する年ということで、首都ハバナと東京で両国の現代アーティストを紹介する展覧会が企画された。『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』から約20年。ソンやルンバといった音楽やダンスは日本でも愛されてきたが、一方で30年以上の歴史をもつ国際美術展ハバナ・ビエンナーレをはじめ、キューバのアートが世界中の作家やコレクターの垂涎の的であることは知られていない。出展作家でキューバを代表するアーティストであるグレンダ・レオンのスタジオ訪問や多様な立場の関係者との対話を通して、他のどこにもない独特の環境で熟成を遂げてきたキューバ芸術の洗練された表現と作家たちの静かな意思を知り、覚醒の思いだった。
観光客で賑わうハバナはいまも経済封鎖による物資不足のため20世紀半ばで時が止まったかのよう。1950年代のクラシックカーが、そこかしこで音楽が奏でられるコロニアル様式の街並に映え、レストランでは簡素な地鶏や魚のグリルとコロッケがごちそうだ。公共のWi-Fiがあるのはホテルのロビーと公園だけ。とはいえ犯罪率は驚くほど低く、アメリカとメキシコがすぐ対岸なのに、他の品々と同じく銃も入ってこない。医療も教育も文化もほぼ無料で、誰もが最低限の生活を保障され、才能と向上心のある者には留学や起業の機会も均等に用意されるという。物質的に貧しくとも極度の格差や貧困がないのだ。現政権下の規制緩和に加え、持ち前の楽観主義に支えられたキューバのストレスフリーな生活に触れ、日本社会が昭和の時代に置いてきた豊かさの本質を顧みる。キューバの現在地を投影するアーティストたちの声に、東京の帰国展でぜひ耳を傾けてみてほしい。
『Going Away Closer: Japan-Cuba Contemporary Art Exhibition』<br>「近くへの遠回りー日本・キューバ現代美術展」帰国展
〈スパイラルガーデン(スパイラル 1F)〉
参加作家:岩崎貴宏、⾼嶺格、⽥代一倫、三瀬夏之介、ミヤキフトシ、⽑利悠子、持田敦子 グレンダ・レオン、ホセ・マヌエル・メシアス、レニエール・レイバ・ノボ、レアンドロ・フェアル
主催:国際交流基金