ART
時空を超える宮永愛子の作品に会える3つの旅へ|青野尚子の今週末見るべきアート
May 5, 2023 | Art | casabrutus.com | photo_Takuya Neda text_Naoko Aono
今年の春は東京と京都の3カ所で現代美術家、宮永愛子の作品を見ることができます。それぞれにコンセプトの違うアートが時空を超える旅に連れていってくれます。
宮永愛子は京都出身、同地を拠点としているアーティスト。ナフタリンなどを使った作品で知られている。ナフタリンは常温で昇華(固体から液体を経ずに直接、気体になること)し、再結晶する。宮永はそのナフタリンを使って椅子や鍵などのモチーフをかたどった作品をつくっている。それらは次第に昇華してケースなどに結晶となって現れる。
〈森美術館〉で開かれているグループ展『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』で宮永はナフタリンで靴をかたどった作品《Root of Steps》を出品した。ハイヒール、バレエシューズ、草履などさまざまな靴が並べられている。〈森美術館〉は六本木ヒルズ森タワーの53階にある美術館。地下鉄や地上からはエレベーターやエスカレーターで上へ上へとのぼっていくことになる。
「こんな高いところにある美術館ってほかにないと思うんです。その六本木ヒルズの『根』になるようなもの、呼吸させるものって何だろう。やっぱりそれは人の足、足跡(そくせき)かなと。人がいなければその場所は呼吸しないわけで、それでモチーフは靴にしようと思いました」
靴は〈森美術館〉がある六本木ヒルズで働いている人や、そこを訪れた人が履いていたものだ。
「ヒルズを歩いて見ていると、世界中からみんなが何か期待を持って集まっている。訪れる人だけでなく、ここでお店を運営したりして働いている人、生活している人もいる。ここに集い続けることが場所の未来につながるような気がしました」
「ヒルズを歩いて見ていると、世界中からみんなが何か期待を持って集まっている。訪れる人だけでなく、ここでお店を運営したりして働いている人、生活している人もいる。ここに集い続けることが場所の未来につながるような気がしました」
中敷きにはラベルがある。料理人、恋人、六本木ヒルズ自治会員など「靴を履いていたときにその人は『誰』だったのか」が書かれているのだ。
「その人の人生を知らなくても、想像しただけでわくわくしてきます。靴を型取りさせてくれた人の中には六本木ヒルズができる前からそこに住んでいる方もいらっしゃいました。その人の靴からは家族の歴史や六本木ヒルズと歩んできた長い時間が見えてきました」
「その人の人生を知らなくても、想像しただけでわくわくしてきます。靴を型取りさせてくれた人の中には六本木ヒルズができる前からそこに住んでいる方もいらっしゃいました。その人の靴からは家族の歴史や六本木ヒルズと歩んできた長い時間が見えてきました」
ケースに入った靴は壁3面に並べられて、鑑賞者を取り囲む。
「鑑賞する人も53階まであがってきて、作品を体感しているうちに、自分もヒルズの街を作っている一人なんだなと足元を見て感じてもらえるといいな、と思います」
「鑑賞する人も53階まであがってきて、作品を体感しているうちに、自分もヒルズの街を作っている一人なんだなと足元を見て感じてもらえるといいな、と思います」
森美術館開館20周年記念展『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』
〈森美術館〉東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階。~2023年9月24日。会期中無休。10時~22時、火曜のみ~17時(最終入館は30分前まで)。8月15日は〜22時まで開館。入館料2,000円。公式サイト
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illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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