ART
インターネットの「網の中」をさまよう束芋のアート。
January 18, 2017 | Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
束芋の新作が京都で発表されます! しかも今回は撮影可、インターネットへのアップも可能。束芋の作品と、鑑賞者が撮ってネットにあげた写真との間に発生する関係性がまた新たなアートになるかも、という複雑な仕掛けです。アーティストと鑑賞者があやしい共犯関係を結ぶことになるのか、それとも?
時間や空間の感覚をちょっとずつずらして、私たちが当たり前だと思っている日常風景にきしみを入れる束芋の作品。主に手描きのアニメーションによる映像インスタレーションを制作している彼女の新作「網の中」が京都文化博物館別館ホールで発表される。
タイトル中の「網」が現すもののひとつはインターネットだ。束芋はこれまで、会場での撮影を禁止してきた。撮影するという行為が、束芋が鑑賞者に期待する「作品と身体的に関わる」ことを妨げること、他の鑑賞者の邪魔になること、その写真がネットに掲載されることで初見の感動が失われることなどが理由だ。しかし彼女は、鑑賞者による撮影は「悪い面ばかりではない」とも感じている。
そこで今回は静止画に限り、一定の条件付きで撮影を許可することにした。撮影する鑑賞者は束芋の作品の一部となり、最終的に映像インスタレーションとなる。撮影した写真はネットにアップすることも可能だ。もちろん、ネットで写真を見ることとリアルな空間で作品を体験することは別物になる。束芋は今回、ネットにアップされることで作品が持つ時間や空間がどのように歪められるのか、ネット空間が持つ力をどのように作品に還元していけるのかという実験をしたいと考えている。
束芋は「現実の展示空間が『実』で、ネット空間が『虚』であるとは限らない、複雑な構造を提示できるかもしれない」と言う。この実験には協力者、つまり束芋の作品を撮影する鑑賞者が必要だ。会場の京都文化博物館・別館は装飾的な柱や窓、格天井がある歴史的建造物だ。そんな特別な場所で束芋の“共犯者”として作品に関わることができる、貴重な機会になる。
束芋の新作パフォーマンス「網の外」イメージ映像を使用した『京都府新鋭選抜展2017 CM』(30秒)。
展覧会初日と翌日の1月28、29日にはオープニングイベントとして、映像インスタレーションが展示される空間を舞台にパフォーマンス「網の外」を行う。束芋の映像芝居「錆からでた実」(2013〜2016年)でもコラボレーションしたダンサー、森下真樹と鈴木美奈子が出演する。映像が投影されるスクリーンによって物理的に分割された空間をダンサーの身体と音楽が行き来し、小さな携帯電話が内包するバーチャルな空間がリアルな空間に見えない裂け目を入れる。“網の中と外”を行き来するスリリングなパフォーマンスだ。
『Kyoto Art for Tomorrow―京都府新鋭選抜展』特別出品 束芋「網の中」
〈京都文化博物館 別館ホール〉