ART
アーティスト・志村信裕が千葉の水郷・佐原で個展を開催。
November 15, 2022 | Art, Travel | casabrutus.com | text_Akio Mitomi editor_Keiko Kusano
映像インスタレーション作品で知られる志村信裕の個展が、活動の拠点としている千葉県香取市で開催中だ。明治時代から続く町家をリノベーションした場所で、水郷・佐原の生活史に耳を傾けることができる。
かつて利根川の水運で栄え「江戸優(まさ)り」とまでいわれた佐原。重要伝統的建造物群保存地区に指定された街の中心部に位置する本展の会場〈いなえ〉は、明治時代から残る町家2棟と洋館、蔵が中庭でつながった施設で甘味喫茶、ギャラリー、ショップという3つの機能を持つ。
そのうちの洋館で展示されているのが、志村信裕の代表作《光の曝書》。書物を虫干しするように、木漏れ日の映像で照らされている古書は、高浜虚子が選句した『日本新名勝俳句』(1931年)だ。
「たまたま見つけた、全国の名勝地を詠んだ句集で、開いてあるのは利根川のページです。17文字の句を読むと、91年前の風景が脳内で写真のように甦るから不思議です」と志村。
そのうちの洋館で展示されているのが、志村信裕の代表作《光の曝書》。書物を虫干しするように、木漏れ日の映像で照らされている古書は、高浜虚子が選句した『日本新名勝俳句』(1931年)だ。
「たまたま見つけた、全国の名勝地を詠んだ句集で、開いてあるのは利根川のページです。17文字の句を読むと、91年前の風景が脳内で写真のように甦るから不思議です」と志村。
展覧会のタイトルにつながる新作《水鏡》は、洋館に隣接する蔵に展示されている。
「この場所での展示を考えたとき、物ではなく声を作品にしようと思いました」
近年《Nostalgia, Amnesia》(2019年)などでドキュメンタリーの手法を取り入れている志村だが、本作では声の主が登場することはなく、夕陽に照らされる利根川の水面(みなも)が移ろう様子が映される。
「東京オリンピックの翌年、1965年から運河が埋め立てられて道路になったことで、佐原の生活は一変しました。この作品ではそれ以前に近郷から嫁入り舟に乗って嫁いできた、90歳と77歳の女性にインタビューした音声を編集しています。『嫁に行ったら余計なことはしゃべるな』と言われ口を閉ざしてきた彼女たちの言葉には、当時の女性蔑視や失敗談も含まれます。地域を題材にしたアートというと、いいところだけを集めた作品になりがちですが、このようなオーラルヒストリーでは、ネガティブな話こそ新鮮で貴重だと思います」
「この場所での展示を考えたとき、物ではなく声を作品にしようと思いました」
近年《Nostalgia, Amnesia》(2019年)などでドキュメンタリーの手法を取り入れている志村だが、本作では声の主が登場することはなく、夕陽に照らされる利根川の水面(みなも)が移ろう様子が映される。
「東京オリンピックの翌年、1965年から運河が埋め立てられて道路になったことで、佐原の生活は一変しました。この作品ではそれ以前に近郷から嫁入り舟に乗って嫁いできた、90歳と77歳の女性にインタビューした音声を編集しています。『嫁に行ったら余計なことはしゃべるな』と言われ口を閉ざしてきた彼女たちの言葉には、当時の女性蔑視や失敗談も含まれます。地域を題材にしたアートというと、いいところだけを集めた作品になりがちですが、このようなオーラルヒストリーでは、ネガティブな話こそ新鮮で貴重だと思います」
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