ART
彫刻のような絵画。画家・水戸部七絵の規格外の“絵日記”。
March 10, 2022 | Art | casabrutus.com | photo_Mie Morimoto text_Masanobu Matsumoto
油絵の具を厚く盛るようにペイントを施す手法で制作した、さまざまな「顔」をテーマとした作品で知られる水戸部七絵。〈東京オペラシティ アートギャラリー〉で開催中の個展『project N 85 水戸部七絵』では、コロナ禍を経て感じた思いを表現したシリーズをはじめ、現代社会に対するより力強いメッセージ性を帯びた60点以上もの新作が展示される。
少し誤解を招くかもしれないが、水戸部七絵の絵画は彫刻のようだ。作品の多くはキャンバスに大量の絵の具が盛られ、なかには石膏像や楽器などのオブジェを貼り付けたものもある。小学生のとき、上野の美術館でフィンセント・ファン・ゴッホの厚塗りの《ひまわり》を観て画家を志したという水戸部だが、彼女の作品の厚みに関しては、ゴッホ以上。40から50cmあるものもある。
そのぶん、大量の画材を使うので「運ぶのにクレーンが必要だった」とか「手が腱鞘炎になった」といったエピソードも聞くが、絵画というものが、単なる「イメージ」ではなく、フィジカルな「もの」の表現でもあるということを改めて実感させてくれるのが、水戸部の作品の魅力の1つと言える。
そのぶん、大量の画材を使うので「運ぶのにクレーンが必要だった」とか「手が腱鞘炎になった」といったエピソードも聞くが、絵画というものが、単なる「イメージ」ではなく、フィジカルな「もの」の表現でもあるということを改めて実感させてくれるのが、水戸部の作品の魅力の1つと言える。
これまで人種やジェンダー、個人のコンプレックスなどが顕在化するものとして、主に「顔」をテーマに創作を展開してきた水戸部。だが、〈東京オペラシティ アートギャラリー〉で開かれている個展で見せるのは、より社会というものへ関心を広げた彼女の新しい試みとも言える作品だ。中心となるのは、コロナ禍以降に手がけたという〈Picture Diary〉シリーズ。水戸部が心を揺さぶられた世界で起こっているニュースを題材に、文字通り“絵日記”のように、絵や文字を記した作品群である。
例えば、東京オリンピック・パラリンピック、バンクシーやバスキアなどアートに関するニュース、〈大英博物館〉における黒人奴隷に関与した人物の胸像撤去問題、ブラジルでナショナルチームのサッカー選手に対する男女間の給料格差がなくなったこと、SNSで世界中にシェアされた、タリバンの復権に対するアフガニスタン少女の悲劇的な動画...。ジェンダーや人種問題、アートの価値、政治や資本主義にまつわるトピックが、水戸部が感じたままに、ストレートに作品に映し出される。
Loading...
Loading...