ART
70代で才能が開花、農婦から国民的画家へ。生誕160周年『グランマ・モーゼス展』に注目。
| Art, Design | casabrutus.com | text_Mariko Uramoto editor_Keiko Kusano
本格的に絵を描き始めたのは70代半ば、初個展を開いたのは80歳のとき。そして101歳で人生を閉じるまで、アメリカの国民的画家として親しまれたモーゼスおばあさんことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス。彼女の生誕160周年を機に企画した『グランマ・モーゼス展─素敵な100年人生』が世田谷美術館でスタート。日本初公開を含む約130点が展示される。
アメリカに住む人のほとんどが知っているというグランマ・モーゼスことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス。農家に嫁ぎ、主婦として人生の大半を過ごしてきた彼女が、本格的に筆を握ったのは70代半ば。それまで趣味で刺繍絵を楽しんでいたが、リウマチが悪化したため、針を筆に持ち変えたことがきっかけだったという。
彼女の絵は村での暮らしと地続きだ。画面いっぱいに描くのは豊かな田園風景や自然とともに生きる農民たち。巡る季節や、時に穏やかで時に脅威と化す自然に敬意を払い、キャンバスに表現する。奇をてらわず、あるがままを表現する彼女はある一人のアートコレクターによって才能を見出され、80歳で初めての個展をニューヨークで開催。それをきっかけに国内外でも作品が展示されるようになり、あっという間に人気作家になった。
第一次世界大戦、大恐慌、第二次世界大戦、冷戦……と、激動の時代を生きたモーゼスは一貫して、郷愁に満ちた豊かな田園風景を描いている。社会がめまぐるしく変化する中で、彼女の素朴な筆致に癒される人は多かった。ただ、どれほど著名になっても、大統領から表彰を受け、『TIME』誌の表紙を飾っても、モーゼスの堅実な暮らしは変わらなかった。アトリエは持たず、絵の制作は主に寝室やキッチンの脇の小部屋、庭など。村の素朴な日常を愛し、身近な風景を変わることなく描き続けた。
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