ART
山口晃による新作カレ「エルメスの職人たち」制作秘話|石田潤のIn The Mode
March 18, 2020 | Art, Fashion | casabrutus.com | text_Jun Ishida editor_Keiko Kusano
画家、山口晃によるエルメスの新作カレがついに発売された。8年越しのプロジェクトとなった作品のテーマは“職人づくし”。山口がカレに描いたエルメスの工房探訪記を語る。
話は8年前に遡る。2011年、〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉で展覧会を行うことになった山口の作品を見るために、パリからエルメスのアーティスティック・ディレクターであるピエール=アレクシィ・デュマがやってきた。馬具工房として始まったエルメスの歴史も踏まえて、山口の所属ギャラリーは、馬とオートバイが合体した想像上の“馬バイク”を描いた『日清日露戦役擬畫』など、馬をモチーフとした作品を数点用意した。それを見たデュマは、展覧会に加えて、「カレ」の制作を山口に依頼する。これを受け、その数ヶ月後に山口は制作のための視察として、フランスにあるエルメスの工房を訪ねる旅に出る。それから時が流れること7年、ようやく仕上がった山口の絵はパリへと運ばれ、カレの制作がスタート。そして2020年、絵の世界は色とりどりのスカーフへと姿を変え、山口晃のカレ「エルメスの職人たち」が完成した。
“職人づくし”というテーマの通り、カレにはエルメスの工房で働く職人たちの姿が描かれている。「せっかくフランスへ行くのだから、あえて事前に何も考えず、現地でハッと思ったことを描けばいいという姿勢で旅立ちました」と山口は振り返る。訪れたのは、ブルゴワン、リヨン、パリの3ヵ所だ。シャルル・ド・ゴール空港からTGVに乗り、まずはカレの版を制作するブルゴワンにある工房へ。「野っ原の敷地に2階建ての簡素な工房が建っていて、飾り気はないけれど素敵なんです」と、山口はまるでついこの間の出来事のように語り出す。
「工房では版に起こす職人が、カラーの絵を黒のインクの濃淡で置き換える作業に取り組んでいました。お昼時には前庭でお弁当を持ち寄って食べていたりして、そうした職人たちの姿が実に面白く、これは“職人づくし”だなと思いました。ここに描いたのは、私の想像ではなくあくまで工房訪問探訪記です」。
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illustration Yoshifumi Takeda
石田潤
いしだ じゅん 『流行通信』、『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。
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