ART
吉田実香のNY通信|開かれたオークションハウス、新生サザビーズとは。
| Art, Architecture | casabrutus.com | photo_Brett Beyer text_Mika Yoshida
この夏、足を運びたいのがNYのサザビーズ。創立1744年、伝統ある英国オークションハウスが重松象平+OMA NYの設計により、巨大かつ洗練されたアート体験空間へと進化した。
知っているようで、日本ではなじみ薄いのがオークションハウスだ。コレクターなど所有者から出品された「お宝」をオークションにかける会社で、クリスティーズとサザビーズが二大巨頭。パドルを握りしめ、丁々発止で競り合うスリリングな競売会場をイメージしがちだが、超高額な美術品を購入する為だけの場所ではない。ヨーロッパやアメリカでは、一般市民がアートやジュエリー、ワインやウォッチなど好きなものを探しに足を運ぶ。ヴィンテージ・ショップをうまく使いこなす欧米人にとって、オークションハウスもその延長線上なのか、ごく自然に親しむ様子が見受けられる。
でも、入札する予定が無くても作品を見ることはできる? 入場料ってやっぱり高い? ギャラリーもある? そんな疑問も湧くだろう。出品作品を観る機会を、あらゆる人に無料で提供するのもオークションハウスの伝統だ。このたび大規模な増改築を完了したサザビーズの本社屋は、これまで「知る人ぞ知る」存在とも言えた同社ギャラリーに、かつてなく開かれたアート体験空間という定義を真正面からもたらした。
でも、入札する予定が無くても作品を見ることはできる? 入場料ってやっぱり高い? ギャラリーもある? そんな疑問も湧くだろう。出品作品を観る機会を、あらゆる人に無料で提供するのもオークションハウスの伝統だ。このたび大規模な増改築を完了したサザビーズの本社屋は、これまで「知る人ぞ知る」存在とも言えた同社ギャラリーに、かつてなく開かれたアート体験空間という定義を真正面からもたらした。
設計はOMA NY率いる重松象平。このサザビーズは重松にとってアメリカで過去最大のギャラリープロジェクトだ。建物の全11階のうち4フロアを占めるギャラリーは大小合わせて、実に40室。さらにプライベートセールス用ギャラリーが9室。美術館並みというか、ちょっとした美術館を凌ぐ展示面積そして作品点数が、この建物に収められている。バリエーションは部屋のサイズにとどまらない。足を進めるにつれ床や壁の素材、形やスケール感など20種類もの空間が次々と現れて、重松呼ぶところの「多様性を通じた柔軟性」を体感することができる。
ギャラリー面積が従来の6,200平米強から約8,400平米に拡大したばかりでなく、建物のヒエラルキーも根底から変えられた。以前は最上階である10階が大ギャラリーで、この「プレミアム・フロア」をトップに据え、あとは7階や2~4階にバラバラと中・小規模のギャラリーが配してあった。新生サザビーズでは、1~5階つまり低層階にギャラリーを集約させてある。そのおかげで、サザビーズを訪れる人は建物に足を踏み入れたとたんに、質・量ともに圧倒的な美術品の間をただちに「回遊」し始めるのである。
ギャラリー面積が従来の6,200平米強から約8,400平米に拡大したばかりでなく、建物のヒエラルキーも根底から変えられた。以前は最上階である10階が大ギャラリーで、この「プレミアム・フロア」をトップに据え、あとは7階や2~4階にバラバラと中・小規模のギャラリーが配してあった。新生サザビーズでは、1~5階つまり低層階にギャラリーを集約させてある。そのおかげで、サザビーズを訪れる人は建物に足を踏み入れたとたんに、質・量ともに圧倒的な美術品の間をただちに「回遊」し始めるのである。
オープンに開かれた気風は、エントランスからすでに始まっている。ガラスの扉から中に入ると、レセプションデスクの後方にギャラリーが。その壁に大きく掲げられた、世界的な名画が目に飛び込んでくる。天文学的な価値を備えたアートと、NYの活気に満ちたストリートとがここでは大胆に直結しているのだ。
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吉田実香
よしだ みか ライター/翻訳家。ライター/インタビュアーのパートナー、デイヴィッド・G・インバーとのユニットでNYを拠点に取材執筆。『Tokyolife』(Rizzoli)共著、『SUPPOSE DESIGN OFFICE』(FRAME)英文執筆、『たいせつなきみ』(マイラ・カルマン 創元社)翻訳。
