日本が置いてきた豊かさの宝庫、キューバとの交流展。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

日本が置いてきた豊かさの宝庫、キューバとの交流展。

国交正常化と規制緩和で今後の変化に注目が集まるキューバのアート。ハバナで滞在制作した日本人作家の作品と共に紹介する展覧会の帰国展が東京・青山の〈スパイラル〉で開催される。

ハバナ市内には対米関係が緊張化する以前に輸入されたカラフルなアメ車が行き交う。ビビッドに塗り替えられた建物と同じく、何度も修理して乗っているがまるで新車だ。
19世紀に開店した薬局。スペイン風のコロニアル様式のインテリアは
端正で、調剤用の秤や薬瓶も昔のまま。ただしドラッグストアのように何種類もの商品を置いてはいない。
目抜き通りを一本逸れると素朴な市民の生活を覗くことができた。キューバの人々は人懐っこくて親切。裏通りでも緊張感はなく、深夜でも一人歩きできる治安の良さに驚く。
近年の政治的開放と共に世界の注目を集めるカリブ海の島国キューバ。2018年は日本人のキューバ移住120周年を記念する年ということで、首都ハバナと東京で両国の現代アーティストを紹介する展覧会が企画された。『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ』から約20年。ソンやルンバといった音楽やダンスは日本でも愛されてきたが、一方で30年以上の歴史をもつ国際美術展ハバナ・ビエンナーレをはじめ、キューバのアートが世界中の作家やコレクターの垂涎の的であることは知られていない。出展作家でキューバを代表するアーティストであるグレンダ・レオンのスタジオ訪問や多様な立場の関係者との対話を通して、他のどこにもない独特の環境で熟成を遂げてきたキューバ芸術の洗練された表現と作家たちの静かな意思を知り、覚醒の思いだった。
ヴェネチア・ビエンナーレなどでキューバ代表を務めるアーティスト、グレンダ・レオンのスタジオ。新市街の瀟洒な住宅街にある1940年代の建物を自身でリノベしたという。
詩的なコンセプチュアル・アートで知られるグレンダの作品が展示されたヴューイングルーム。筆や骰子、梯子といった日常的な物にシニカルで示唆的な着想を加えている。
カセットテープや本はグレンダにとって欠かせないモチーフ。キューバの作家は物資不足のため日用品や廃品の素材使いに長けているが、彼女の手つきにはエレガントさが際立つ。
古いタイプライターにネイルアートを施した作品。痛快な悪戯心で既製品に詩性を吹き込み、キューバの社会にひそむ検閲や生活をめぐる問題をこっそりと囁く。
本展会場となった〈ウィフレド・ラム現代美術センター〉。美しいパティオを囲む回廊の奥に展示室が配されている。この日は半屋外のテラスでトークショウが行われていた。
毛利悠子《polar-oid(o)(白くまと感光紙)》。現地で収集した品と日本の精密機器を構成し、磁力や重力など目に見えない力で同期させたライヴインスタレーション。
持田敦子《Further you go, you may fall or you may learn》。美術館裏庭に螺旋階段を仮設。強烈な異物感が忘れられた空き地をスペクタクルな異空間に変質させる。
ホセ・マヌエル・メシアス《From the series Verses and Theorems》。検査用の眼鏡に見立てた腕時計のフレームによって古物に宿る職人の技術の洗練と進歩を人類学的に考察する。
観光客で賑わうハバナはいまも経済封鎖による物資不足のため20世紀半ばで時が止まったかのよう。1950年代のクラシックカーが、そこかしこで音楽が奏でられるコロニアル様式の街並に映え、レストランでは簡素な地鶏や魚のグリルとコロッケがごちそうだ。公共のWi-Fiがあるのはホテルのロビーと公園だけ。とはいえ犯罪率は驚くほど低く、アメリカとメキシコがすぐ対岸なのに、他の品々と同じく銃も入ってこない。医療も教育も文化もほぼ無料で、誰もが最低限の生活を保障され、才能と向上心のある者には留学や起業の機会も均等に用意されるという。物質的に貧しくとも極度の格差や貧困がないのだ。現政権下の規制緩和に加え、持ち前の楽観主義に支えられたキューバのストレスフリーな生活に触れ、日本社会が昭和の時代に置いてきた豊かさの本質を顧みる。キューバの現在地を投影するアーティストたちの声に、東京の帰国展でぜひ耳を傾けてみてほしい。

『Going Away Closer: Japan-Cuba Contemporary Art Exhibition』
「近くへの遠回りー日本・キューバ現代美術展」帰国展

〈スパイラルガーデン(スパイラル 1F)〉

東京都港区南青山5-6-23
TEL 03 3498 1171。 6⽉6⽇〜6月17日11時〜20時。入場無料。
参加作家:岩崎貴宏、⾼嶺格、⽥代一倫、三瀬夏之介、ミヤキフトシ、⽑利悠子、持田敦子 グレンダ・レオン、ホセ・マヌエル・メシアス、レニエール・レイバ・ノボ、レアンドロ・フェアル
主催:国際交流基金

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