昭和歌謡の愛憎を描いた、上村一夫のイラストとは。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

昭和歌謡の愛憎を描いた、上村一夫のイラストとは。

『カーサ ブルータス』2018年2月号より

セクシージャケットの歴史から、伝説の劇画作家の話まで。単行本を上梓したO.L.H.が、真面目に語ってくれました。

上村一夫がジャケットを手がけた名曲。桜井京「新宿港」(74年)。
読者の悩みに答える雑誌連載をまとめた著書『けだものだもの』を発表したOnly Love Hurts(以下O.L .H .)。表紙などの装画をテリー・ジョンソン、イラストを根本敬が手がけ、O.L .H .の音楽作品にも通じる知性とセクシュアリティーが凝縮された一冊になっている。そこで、二人のコレクションの中からセクシージャケットを選んでもらい、話を聞いた。まずはセクシーな装丁が生まれた、ある理由から探ってみた。

sinner-yang(以下S) 例えばオーティス・レディングの『オーティス・ブルー』(1965年発表)は、歌手本人は黒人であるにもかかわらず、ジャケットは艶のある金髪美女が飾っている。作品が発表されたのは、公民権法が成立した翌年。でも、まだ黒人に対する差別が激しかった時代に、白人層にもレコードを売りたい会社側が、無関係の金髪美女を使って制作したんでしょうね。
aCKy(以下A)人種を問わず、歌っている本人が“ジャケットをこうしたい〞とか、意見する時代じゃなかったんだろうね。
S レコード会社からすれば、ジャケットなんてデパートの包装紙くらいの感覚だったんだと思う。

Q ジャケットも作品の一部で、当然、ミュージシャン本人も携わると思っていたから驚きです。音楽家自身がアートワークも作品だと意識したのはいつ頃から?
S セクシーなジャケットという点ではカーリー・サイモン『ノー・シークレッツ』( 72年)が代表的ではないでしょうか。ジャケットに写る本人は、シャツから乳首が透けていて。歌詞からも聴き取れますが、当時のフェミニズム運動と呼応しているんです。ただ、日本に住んでいるとそんなことは知らなかったので、エロい目線で見てしまいましたが(笑)。その後、サンタナが『ロータスの伝説』(74年)で、横尾忠則を迎えて22面ジャケットを作ってから、全世界の音楽業界のビジネスコンディションが変わったんです。

Q ご持参いただいたレコードの中に、イラストレーターの上村一夫さんが手がけられた色気の漂うジャケットがありますね。
A 劇画『同棲時代』や広告なども手がけ、イラストレーターとして一時代を築いた方ですね。大ファンなので、上村さんが手がけたジャケットは見かけたら買います。
S 70年代初頭で、内容は貧しい男女のドロドロの愛憎劇。世の中の雰囲気を戯画化すると、ピッタリはまる絵ですね。歌謡曲の世界観ともリンクしていたので、ジャケットも多く手がけられていた。
A 多分、桜井京さんは自分のレコード「新宿港」や「離婚倶楽部」が、どんなジャケットになるか、知らないハズだよ。

Q 全部、女性が泣いてますね。これもレコード会社の判断?
S レーベルとして、悲しい歌に、時代の空気を象徴する上村イラストを使えばレコードの売り上げが伸びると考えたんでしょう。北原ミレイの「ざんげの値打ちもない」にも上村作品が使われているなんて。本人が写ったオリジナルジャケットしか知らなかった。
矢吹健「春雨物語」(74年)。
北原ミレイ「ざんげの値打ちもない」(70年)。
桜井京「離婚倶楽部」(1975年発表)。
小林さち子「恋地獄未練ばなし」(73年)。
Q O.L .H .『音楽ぎらい』(99年)のジャケットにも上村さんのイラストが使用されていますね。
A 制作時、上村さんは既に亡くなっていたので、奥様に作品を使わせて欲しい旨、お願いしに行きました。事前に資料をお送りしたら「こんなイヤらしい人たちが、主人の絵を使うのか」と、断られて。それでもご自宅へうかがい、お茶を飲みながら話をしたら、盛り上がっちゃって(笑)。奥様はご主人が描く男女のそういう劇画が大嫌いだったみたいで。でも、唯一好きな作品だと、資生堂の広告で使われたイラストが飾ってあった。それをお借りしました。

Q 「ざんげの〜」など、過激ともいえる愛憎劇が歌われていますが、ジャケットの女の涙と相まってグッと心に染みますね。
S それは歌謡曲が、フィクションだからでしょう。パンクは過激だけど、自分の体験を叫ぶ私小説のような作風。歌謡曲は作詞家、作曲家のあつらえた世界を歌手が演じる映画的な音楽で、自由度が高い。まったく体験したことのないことを、歌手は一から表現できるんですから。

Q 現代の風俗や事件を扱ったO .L .H .の音楽の世界に近いですね。
S パンクやニューウェイブから出発しましたけど、子供の頃に聴いた歌謡曲を振り返り、よくわからない大人の世界の怖い部分を歌っていて。パンクより、そっちのほうが過激に感じ、徐々に傾倒するようになった。アートワークも含め、強く影響を受けていますね。

『けだものだもの〜O.L.Hのピロウトーク倫理委員会』

故・吉本隆明に「この人はうますぎるほどの物語詩の作り手だ」と言わしめた二人が、読者の性のお悩みに対峙したバンド初の単行本。誰にも言えない問題に、時に真っ向から、そして予想だにしない方向から回答を展開。最初に笑い、最後はなぜか感動する奇跡の一冊。

Only Love Hurts 

a.k.a. 面影ラッキーホールことO.L.H.。1992年にボーカル/作詞のaCKy(写真右)と、ベース/作曲のsinner-yangを中心に結成。9枚のアルバム、3枚のシングルを発表。

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