「不完全」だからこそ美しい? 小沢剛の個展へ。|青野尚子の今週末見るべきアート | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

「不完全」だからこそ美しい? 小沢剛の個展へ。|青野尚子の今週末見るべきアート

千葉市美術館で開催中の小沢剛個展タイトルは『不完全』。美術展としてはちょっと変わったタイトルの裏に、この世界への疑問が潜んでいます。

石膏像と石膏デッサンによるインスタレーション《不完全》。石膏像が綿に包まれているのは「雲にのって神や阿弥陀如来などいろんな人がやってくる、世界共通のイメージ」(小沢)だそう。
「『茶道』の本質は不完全なものの崇拝なのである」(*)

岡倉天心「茶の本」にあるこの文章が、今回の展覧会タイトルの元になっている。「僕の思い込みかも知れないけれど、不完全とは完璧さを目指す過程であって、ネガティブなものとは思っていないんです」と小沢剛はいう。岡倉天心は明治期に海外に日本美術を紹介、また東京美術学校(現・東京藝術大学)の設立に深く関わるなどして美術教育に携わった。この展覧会は、欧米の文化が一度に流入する中で近代化を迎えた日本の美術史や美術教育がテーマになっている。

会場では綿に包まれたたくさんの石膏像が出迎える。この展覧会タイトルと同じ《不完全》という題名だ。この石膏像の多くは古代ギリシャ・ローマ彫刻を模造したもの。日本の美大の多くは受験科目に石膏デッサンを科しており、受験生は必ずと言っていいほど通る道だ。木炭を使ってできるだけ正確に形をとり、陰影をつけて立体感を出す。が、こんなに熱心に石膏デッサンをやっているのは日本だけなのだそう。ヨーロッパではとうに衰退し、アジア諸国では西洋ではなく仏像など自国の彫像をデッサンすることが多い。

「西洋の彫像を写すのがなぜ美術の基礎体力をつけることになるのか、高校の頃から疑問に思っていました。なぜなのか調べてみたら、どうも明治時代に当時のフランスやイタリアの教育法を輸入したのが最初のようです。その後、昭和30年頃に美大の入試システムや予備校と結びついて、肥大したのではないか」
《金沢七不思議》のねぶた。手前の小さな人形は博多人形。その他に金沢のB級グルメ「ハントンライス」を醤油で描いた絵なども。(2008年 金沢21世紀美術館蔵 撮影:木奥惠三)
「金沢七不思議」と書かれた色とりどりの布が観客を誘う “見世物小屋”。その奥にある《金沢七不思議》は小沢が金沢で見つけた民話や伝説、B級グルメなどの「七不思議」をモチーフにしたもの。大きな「ねぶた」や九谷焼でできたオブジェが並ぶ。どれも超絶技巧だけれど大半は小沢が作ったものではなく、匠の技を持つ職人に作ってもらったものだ。

「『美術』という言葉は明治の初めに発明されたもの。それと同時に何が美術で、何が美術でないのかがカテゴライズされることになりました」

この《金沢七不思議》には工芸や民藝など、「美術ではない」とされたものが並ぶ。小沢はそちらのほうに興味を引かれるという。

「青森の職人が作った『ねぶた』は日本で一番迫力のある『美術ではないもの』だと思います」

*田中仙堂「岡倉天心『茶の本』をよむ」(講談社学術文庫)