ART
あのノグチの庭でクリスチャン・ボルタンスキーを体験する|吉田実香のNY通信
August 6, 2021 | Art, Travel | casabrutus.com | photo_Nicholas Knight text_Mika Yoshida & David G. Imber
去る7月14日、突如この世を去ったクリスチャン・ボルタンスキー。この夏、〈イサム・ノグチ美術館〉の彫刻庭園で公開中の《アニミタス》に多くの人々が足を運んでいるさなかの予期せぬ訃報だった。はからずも遺作となったインスタレーション《アニミタス》とは、一体どういう作品なのだろうか。
〈ノグチ美術館〉の彫刻庭園は、NY屈指の「外界から遮られたアウトドア空間」だ。イサム・ノグチが選んだ日本やアメリカの樹木と草花、そして彫刻作品が絶妙に配置されており、季節ごとに移り変わる表情が楽しめる。この小さなガーデンで過ごすひとときは地元民にとって心の拠りどころであり、また旅行者の記憶にはNY訪問の「静謐な」ハイライトとして刻まれるのである。
●《アニミタス》がノグチの庭へ。
この夏、ノグチの庭に足を踏み入れると、なんと風鈴の音色が迎えてくれる。クリスチャン・ボルタンスキーによる作品《アニミタス》のインスタレーションだ。庭のいたるところに浮かんでいるのは、スチール製の細いさおに吊り下げられた真鍮の鈴。微風を受けては1つ2つチリリとかすかな音を立て、強い風が煽っては180個の鈴をいっせいに高くかき鳴らす。鈴にはそれぞれ透明な短冊が下がっており、太陽を受けてキラキラと輝いたり、地面に光を反射させたり。ベンチに座りながらランダムな動きを目で追っているうち、いつのまにか時間が過ぎていることに気づく。いつもは穏やかなノグチの庭に、小さな生き物たちがやってきたかのようだ。
フランスを代表する現代アーティスト、ボルタンスキーが《アニミタス》シリーズを最初に制作したのは2014年、舞台はチリのアタカマ砂漠。アニミタスとはチリの先住民族の言葉で、死者の鎮魂を祈るため路傍にしつらえた小さな祠を指す。標高5,000メートルの場所に天体観測のアルマ望遠鏡があるような高地、アタカマ砂漠に設置した風鈴の数は800個。ボルタンスキーが生まれた日の星座を模したレイアウトに並べたという。アタカマ砂漠の後には、カナダのオルレアン島やイスラエルの死海といった場所で同シリーズを制作した。作品はそのまま朽ちて忘れ去られるものとされ、映像だけが残る。一方でスコットランド・エジンバラ郊外の〈ジュピター・アートランド〉、そして瀬戸内の豊島で手がけたものはパーマネント作品として永続的に維持されている。
豊島の《アニミタス》(ささやきの森)を体験した人は、〈ノグチ美術館〉で驚くことだろう。庭から続く建物に入ると、すぐ右手に現れるエリア4のギャラリーで上映している映像は、まさにその豊島の《アニミタス》(ささやきの森)なのだ。先ほど庭で目にしていたのと同じ鈴が鳴り、短冊が風に舞っていながら、光の色、そしてカラスやツクツクボウシの鳴き声が蒸し暑い日本の夏を身体に呼び覚ます。今までいた外界のNYの環境から引き離される奇妙な感覚を、豊島で観た人もそうでない人もぜひ確かめてほしい。
豊島の《アニミタス》(ささやきの森)を体験した人は、〈ノグチ美術館〉で驚くことだろう。庭から続く建物に入ると、すぐ右手に現れるエリア4のギャラリーで上映している映像は、まさにその豊島の《アニミタス》(ささやきの森)なのだ。先ほど庭で目にしていたのと同じ鈴が鳴り、短冊が風に舞っていながら、光の色、そしてカラスやツクツクボウシの鳴き声が蒸し暑い日本の夏を身体に呼び覚ます。今までいた外界のNYの環境から引き離される奇妙な感覚を、豊島で観た人もそうでない人もぜひ確かめてほしい。
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illustration Yoshifumi Takeda
吉田実香
よしだ みか ライター/翻訳家。ライター/インタビュアーのパートナー、デイヴィッド・G・インバーとのユニットでNYを拠点に取材執筆。『Tokyolife』(Rizzoli)共著、『SUPPOSE DESIGN OFFICE』(FRAME)英文執筆、『たいせつなきみ』(マイラ・カルマン 創元社)翻訳。
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