彼こそ、画家の中の画家! ピーター・ドイグがついに来日。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

彼こそ、画家の中の画家! ピーター・ドイグがついに来日。

『カーサ ブルータス』2020年3月号より

90年代のデビュー以降、絵画の可能性を広げてきたドイグ。世界の有名美術館から引っ張りだこの彼が日本初個展です。

《ブロッター》 1993年、油彩・キャンバス、249×199 cm、リバプール国立美術館、ウォーカー・アート・ギャラリー蔵 (c) Peter Doig. National Museums Liverpool, Walker Art Gallery, Presented by the John Moores Family Trust 1993. All rights reserved, DACS & JASPAR 2019 C3120

抽象画の要素も含んだ、故郷カナダを思わせる風景。絵を学んだロンドンで描いた初期作品。冬の森が故郷カナダを思わせる。実際に絵を見ると、画面上の紫と下の紫の質感が全く異なると分かる。人の目はその微妙なテクスチャーの差を感知し、平面の中に不思議な奥行きを感じる。
現在60歳。デビュー時期はダミアン・ハーストと同じと言えば時代感が伝わりやすいだろうか。ピーター・ドイグは、大型インスタレーションやネオ・コンセプチュアルアートが全盛期の90年代に、絵画という当時は “時代遅れ“ とも思われていたジャンルでさっそうとデビュー。アートシーンに大きな衝撃を与えた画家だ。

「絵画は歴史が長い。だから新しい表現を発見しづらく、その点でとても難しいジャンルです。ですが、彼はそうした歴史を背負いつつも、今までにない絵画を提示してみせました」と東京国立近代美術館の学芸員、桝田倫広さん。

「例えば初期作《ブロッター》は、一見すると彼の故郷カナダを思わせる具象画。でも、観点を変えてみると紫、白、紫の3つの色面で構成された抽象画に見えてくる。絵の具を巧みにコントロールし、具象と抽象の間を描いています」
《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)》 2015年、水性塗料・麻、301×352cm、作家蔵 (c) Peter Doig. All rights reserved, DACS & JASPAR 2019 C3120

南国に移住してからの、薄塗りで色鮮やかな作品。2002年トリニダード・トバゴ移住後に描いた幅約3.5mの大作。黒人解放運動の象徴であるユダの獅子、ゴッホを意識した黄色など多様なイメージが重なる。巨大な壁の前に立ったかのような没入感は、絵に対峙する面白さそのもの!
ドイグは2002年にカリブ海のトリニダード・トバゴに移住する。北半球から南半球への大移動。

特有の厚塗りのタッチはなくなり、絵の具は薄く、軽やかな筆遣いに。色彩も鮮やかになる。

「彼はよく “画家の中の画家“ と称されるのですが、それは常に新しい技法を模索しているから。確立させた自分らしさを手放すことにも恐れがない。世界中のアーティストに尊敬されるのもうなずけます」

技法やスタイルが移り変わっているように思えるドイグの作品だが、初期から現在まで制作に対する基本姿勢は変わらないという。

「彼が描こうとしているのは “感覚“ ではないかと思います。ドイグに言わせると『我々は皆、信じられないような夕陽を見たことがある』と。絵の具を通じてその感覚を増幅させているのです」

ドイグは「絵はスローネスだ」だとも言っている。それは制作に時間がかかるから。加えて桝田さんは、ドイグの作品を鑑賞するにも時間が必要だと話す。

「モチーフ、色彩、質感。多様な要素が重なり合う彼の絵画は、それらをつぶさに見るだけでも相当な時間がかかる。イメージが猛スピードで消費される時代に、一枚の絵の前にじっと立つ。そこで、何かに気がついた時、 “絵を見る“ という行為の面白さを実感できるのではないでしょうか」

Peter Doig

1959年スコットランド生まれ。島国トリニダード・トバゴとカナダで育つ。90年チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン修士号取得。94年ターナー賞ノミネート。2002年トリニダード・トバゴ移住。

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