ART
彼こそ、画家の中の画家! ピーター・ドイグがついに来日。
『カーサ ブルータス』2020年3月号より
| Art | a wall newspaper | text & editor_Yuka Uchida
90年代のデビュー以降、絵画の可能性を広げてきたドイグ。世界の有名美術館から引っ張りだこの彼が日本初個展です。
現在60歳。デビュー時期はダミアン・ハーストと同じと言えば時代感が伝わりやすいだろうか。ピーター・ドイグは、大型インスタレーションやネオ・コンセプチュアルアートが全盛期の90年代に、絵画という当時は “時代遅れ“ とも思われていたジャンルでさっそうとデビュー。アートシーンに大きな衝撃を与えた画家だ。
「絵画は歴史が長い。だから新しい表現を発見しづらく、その点でとても難しいジャンルです。ですが、彼はそうした歴史を背負いつつも、今までにない絵画を提示してみせました」と東京国立近代美術館の学芸員、桝田倫広さん。
「例えば初期作《ブロッター》は、一見すると彼の故郷カナダを思わせる具象画。でも、観点を変えてみると紫、白、紫の3つの色面で構成された抽象画に見えてくる。絵の具を巧みにコントロールし、具象と抽象の間を描いています」
「絵画は歴史が長い。だから新しい表現を発見しづらく、その点でとても難しいジャンルです。ですが、彼はそうした歴史を背負いつつも、今までにない絵画を提示してみせました」と東京国立近代美術館の学芸員、桝田倫広さん。
「例えば初期作《ブロッター》は、一見すると彼の故郷カナダを思わせる具象画。でも、観点を変えてみると紫、白、紫の3つの色面で構成された抽象画に見えてくる。絵の具を巧みにコントロールし、具象と抽象の間を描いています」
ドイグは2002年にカリブ海のトリニダード・トバゴに移住する。北半球から南半球への大移動。
特有の厚塗りのタッチはなくなり、絵の具は薄く、軽やかな筆遣いに。色彩も鮮やかになる。
「彼はよく “画家の中の画家“ と称されるのですが、それは常に新しい技法を模索しているから。確立させた自分らしさを手放すことにも恐れがない。世界中のアーティストに尊敬されるのもうなずけます」
技法やスタイルが移り変わっているように思えるドイグの作品だが、初期から現在まで制作に対する基本姿勢は変わらないという。
「彼が描こうとしているのは “感覚“ ではないかと思います。ドイグに言わせると『我々は皆、信じられないような夕陽を見たことがある』と。絵の具を通じてその感覚を増幅させているのです」
ドイグは「絵はスローネスだ」だとも言っている。それは制作に時間がかかるから。加えて桝田さんは、ドイグの作品を鑑賞するにも時間が必要だと話す。
「モチーフ、色彩、質感。多様な要素が重なり合う彼の絵画は、それらをつぶさに見るだけでも相当な時間がかかる。イメージが猛スピードで消費される時代に、一枚の絵の前にじっと立つ。そこで、何かに気がついた時、 “絵を見る“ という行為の面白さを実感できるのではないでしょうか」
特有の厚塗りのタッチはなくなり、絵の具は薄く、軽やかな筆遣いに。色彩も鮮やかになる。
「彼はよく “画家の中の画家“ と称されるのですが、それは常に新しい技法を模索しているから。確立させた自分らしさを手放すことにも恐れがない。世界中のアーティストに尊敬されるのもうなずけます」
技法やスタイルが移り変わっているように思えるドイグの作品だが、初期から現在まで制作に対する基本姿勢は変わらないという。
「彼が描こうとしているのは “感覚“ ではないかと思います。ドイグに言わせると『我々は皆、信じられないような夕陽を見たことがある』と。絵の具を通じてその感覚を増幅させているのです」
ドイグは「絵はスローネスだ」だとも言っている。それは制作に時間がかかるから。加えて桝田さんは、ドイグの作品を鑑賞するにも時間が必要だと話す。
「モチーフ、色彩、質感。多様な要素が重なり合う彼の絵画は、それらをつぶさに見るだけでも相当な時間がかかる。イメージが猛スピードで消費される時代に、一枚の絵の前にじっと立つ。そこで、何かに気がついた時、 “絵を見る“ という行為の面白さを実感できるのではないでしょうか」
Peter Doig
1959年スコットランド生まれ。島国トリニダード・トバゴとカナダで育つ。90年チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン修士号取得。94年ターナー賞ノミネート。2002年トリニダード・トバゴ移住。
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