日本とフランス、2つの“春画”を見比べてみよう|青野尚子の今週末見るべきアート | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

日本とフランス、2つの“春画”を見比べてみよう|青野尚子の今週末見るべきアート

観ていると身も心もぽかぽかしてくる春画。江戸時代の春画と、現代の春画とでも言うべきフランスのアーティストによる写真が並ぶ展覧会が開かれています。日仏それぞれの愛の形を見てみましょう。

会場に並ぶ春画の中でもピエール・セルネが特に好きだという作品。「よく見ると女性の鬢の下から男性の目がこちらを見据えているのにどきっとさせられます」喜多川歌麿《歌まくら》 天明8年(1788)、浦上満氏蔵。
春画はかつて「笑い絵」「あぶな絵」とも呼ばれ、武家から庶民まで広く親しまれていた。とくに武家の間では子孫繁栄・武運長久の縁起をかついで嫁入り道具に使われたことも。が、明治になってアメリカの禁欲的なピューリタン思想が入ってくると春画は猥雑物と認定されてしまい、長らく美術史の表舞台から追いやられてしまっていた。

本展覧会に出品されている春画は浦上蒼穹堂代表の浦上満氏のコレクション。浦上氏は2013年に〈大英博物館〉で、2015年に〈永青文庫〉で開かれた春画の展覧会でも中心的な役割を果たしている。が、彼自身、春画に対してはやや偏見を持っていたという。

「私は18歳のころから北斎漫画を集めていて、春画を蒐集するようになったのはもっとあと、45歳ごろからのことなんです。最初のうちは私自身も春画よりも漫画のほうが上だと思っていましたね」

しかし春画といえども、どの絵師も決して手は抜いていない。むしろ他のジャンルの絵よりもはるかに熱心に取り組んでいるようだ。着物の裾をまくったり相手を抱き寄せる手の繊細な表現、裸体にまとわりつく布の柔らかさ、目を細め、口に笑みを浮かべる愉悦の表情。誰がなんと言おうと、これは一級の芸術品である。
三味線の手をふと止めた女に若衆がしなだれかかる。鈴木春信の男女は中性的な容貌が特徴だ。鈴木春信《萩の庭》(部分)明和6、7年(1769、70)頃、 浦上満氏蔵。
今回の展覧会に浦上氏は自らのコレクションから「トップ5」の絵師を選んだ。鈴木春信は多色刷りによる錦絵の創始者のひとり。彼の絵には古典文学を読み替えたものがあり、見る側にも古典の教養が要求される。鳥居清長の「袖の巻」は極端な横長の画面に極力、背景描写を排して男女の姿のみを写し、普遍的な交歓の様相を描き出した。
喜多川歌麿《歌まくら》(部分)天明8年(1788)、 浦上満氏蔵。花見の宴を抜け出して楽しむ芸者と男。
「女性を描かせたら右に出る者はいない」と浦上氏が評するのは喜多川歌麿。歌麿自身も腕に覚えがあったようで、春画以外にも多くの美人画を残している。