中村拓志インタビュー:ふるまいをデザインし、喜びと豊かさを導く。

住宅と公共とを問わず、自然との調和を目指す中村拓志。自然の美しさを引き出し、感動を生む建築をつくるために心がけている「ふるまいのデザイン」について聞いた。

事務所の中にも様々な植物を多く置き、日常的に緑と接している。事務所は年始に東京・白金に移転した。

常に建築と自然、建築と人との関わりを見つめて設計してきた中村拓志。独立から15年がたった今、心境の変化や志向している建築の在り方について聞いた。

—これまで一貫して、自然を生かし建築と調和させることを心がけていらっしゃいますね。

独立して最初に設計した〈LANVIN BOUTIQUE GINZA〉では、壁に丸い窓をちりばめて、外光が床に水玉となって映る現象をつくり出しました。転機となったのは〈Dancing trees, Singing birds〉です。内部空間に美しい木漏れ日が現れたとき、建築家がいくら頑張って人工的なものをつくっても、自然の美しさにはかなわないと感じました。そうであれば建築は脇役としてつくり、周りの自然の美しさを引き出すほうがいいと考えるようになったのです。それからは、自然に寄り添うような建築を志向してきました。

今回誌面で紹介される作品はすべて、都市の中に建てられた住宅です。それぞれ「虹」「風」「光」をテーマにしていますが、家を取り巻く自然現象を拾い上げ、都会にいながら自然を感じることができるよう考えました。そして同時に、それぞれの敷地が抱える固有の課題を解決して快適な暮らしを実現することも目指しました。

〈虹をさがす家〉は、建物についての高さ制限が厳しく、南側から採光したかったのですが、北側に開かざるを得ない立地で、向かいには家々が並んでいました。それで光学ガラスを角度をつけながら積層し、光が入るようにしています。〈ラジエータハウス〉は旗竿地で周囲が建て込み、風や光を入れたくてもやはりプライバシーの課題がありました。ここでは無数の穴が開いたスクリーンを設置することで、視線は遮りながら風を通し、庭に面して大きな開口を設けることにしました。〈照葉の家〉は北側にある公園とつながるように設計していますが、北向き住戸は光が入りにくい課題があります。ここでは公園にある常緑樹に光を届け、その反射光を室内に取り入れるように計画しました。

ガラスを介して、移ろう光と虹が現れる。

〈虹をさがす家〉

ふるまいから生まれる感情までデザインしたい。

—以前に比べ、建築そのものはシンプルな造形のものが増えているように感じます。設計で心がけていることは?

形態に固執して自分のメッセージを発信したいという思いが取れ、いい意味で力が抜けてきたのでしょう。事務所の若いスタッフからすると、大人の滋味あふれる感覚は理解しづらいかもしれませんが(笑)。家は特に、長く過ごしていても飽きがこないことが大切です。それでいて、日々刻々と移り変わる時間や季節、表情を楽しめる。家というものはそうあるべきだと思うのです。

設計ではいつも「ふるまいのデザイン」ということを考えています。単純に形や空間のデザインをするよりは、人が家の中を動き回って何かを感じたり、会話をしてコミニケーションしたりといった部分に焦点を当てたいと思ってきました。「振る舞い」という単語は、「振り」と「舞い」から成り立っています。振りは行動の模倣を意味し、舞いは踊ることを意味します。つまり、行動の反復ですね。小さな子を見ていると、まさに振る舞いだなと思うのですが、年上の子や親の真似を繰り返すことで、社会的な感覚を身に付けていきます。家の中で起こるふるまいが伝わっていくことで、家族という社会がかたちづくられるのだと思います。

また、人がいない静的な空間をいくら頑張って格好よくしても、意味がないとも考えています。人が集い、ふるまいが連鎖することで、喜びが立ち現れるような建物を目指しているのです。行動と感情の関係は興味深くて、感情から行動に移るかというと必ずしもそうではなく、例えば身体を動かすと気分が高揚するようなことがあります。建築においても行動から感情が立ち上がる瞬間を意識し、人が歩き回ったり、立ったり座ったり、食べたり、寝転んだり、様々なふるまいを想像することを大切にしています。例えば〈虹をさがす家〉では、家の中で虹が現れることを家族で確認し合い、「去年の冬至にもここに出てきた」というように虹を探すことがふるまいになり、家族共通の喜びや思い出が生まれています。建築の豊かさとは、こうしたところにあるのではないでしょうか。