【速報】オリンピックスタジアムを臨む、藤森照信の茶室。「パビリオン・トウキョウ2021」メイキングレポート。
July 9, 2021 | Architecture, Art, Design | casabrutus.com | photo_Tetsuya Ito text_Akio Mitomi editor_Keiko Kusano
オリンピックスタジアムとなる〈国立競技場〉を中心とする都心の10か所に、9人の建築家とアーティストが建物やオブジェを設置し、自由で新しい都市のランドスケープを提案する『Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「パビリオン・トウキョウ2021」』が7月1日にスタートした。そのひとつ《茶室「五庵」》の施工中に、設計者の藤森照信へ行ったインタビューの模様をお届けする。
「最初に希望した場所は外苑西通りをはさんだ南東の角だったのですが、東京オリンピック・パラリンピックの施設ができるというので、現在のビクタースタジオ前になりました。この茶室の特徴は安定した造形で、時代の記念碑として古典的な表現にしました。ローマ建築の流れを汲むオリンピックスタジアムとは対照的な、日本の木造2層建築で、基壇には滋賀の大林環境技術研究所が開発した工法で芝を張ります。関西の競馬場で採用されている強い芝で、東京オリンピック・パラリンピック会期中は緑が保てる。実は去年、新型コロナウイルスの影響で『パビリオン・トウキョウ2020』の中止が決定する前には準備ができていたので、1年分の栄養で育っているんです」
「この茶室は立礼(りゅうれい)式なので、四畳半の床が見えなくなる大きさのテーブルを設計しました。ヨーロッパでも椅子は作品として後世に残るけど、テーブルは無視される。ル・コルビュジエやウェグナーが作ったテーブル、聞いたことがないですから、いつかちゃんと設計してみたかったんです。このテーブルは“火と水”がテーマで、これから設置される炉があって水盤がある。水盤は漆喰でつくった中に、トクサと芝でつくった小さな山がある。そういうテーブルは例がないので、私は気に入っています。天井は炭を小さな岩のように砕いて外壁の焼杉と対比させ、照明は和紙を五輪の色で染めました。障子を閉めると夜は行灯のように光ります」
「いやぁ、いいよ! 自分で言うことじゃないけど(笑)。枠の中から見た良さっていうか、巨大なものを小さな穴の中から見るということなんですよ。枠の中から覗いた感があります。目線の高さはせいぜい4mだけど、やっぱり地上からとは違って見えます。何か別の世界から現世を覗いているような(笑)。競技場の観客が通るあそこの通路からどう見えるかも、早く見てみたいね」
《茶室「五庵」》の構想は3年前から始まり、初期のドローイングは「パビリオン・トウキョウ2021」のメインイメージにも使用されている。
茶室「五庵」:「パビリオン・トウキョウ2021」
東京都渋谷区神宮前2-21-1 ビクタースタジオ前。〜2021年9月5日。11時〜19時(土曜12時〜)。無休。無料。内部への入場には近くの〈ワタリウム美術館〉で当日予約が必要。予約の詳細は https://paviliontokyo.jp/news/reservation から。
藤森照信
ふじもり てるのぶ 1946年生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。現在、江戸東京博物館館長、東京大学名誉教授、工学院大学特任教授。近代建築史・都市史研究を経て1991年、45歳のときに〈神長官守矢史料館〉で建築家としてデビュー。土地固有の自然素材を多用し、自然と人工物が一体となった姿の建物を多く手掛けている。建築の工事には、素人で構成される「縄文建築団」が参加することも。代表作に〈タンポポハウス〉〈ニラハウス〉〈高過庵〉など。近作に〈多治見市モザイクタイルミュージアム〉や〈ラ コリーナ近江八幡〉の〈草屋根〉〈銅屋根〉などがある。