Tinny & THE BALLOON GALLERY|平野太呂/ラジオゾンデの風船

ゲストクリエイターによる、風船をモチーフにした作品を紹介している本誌連載「ふうせんいぬティニー ギャラリー」。今回は写真家の平野太呂がつくばに向かい、かねてから撮りたかったという、とある風船を撮影。ムービーも撮り下ろし。そこに収められている、白く、巨大な風船の正体とは?

平野太呂/ラジオゾンデの風船

沖縄県南大東島に取材旅行に出掛けたときのこと。案内してくれた地元の女性がおもむろに僕たちを小さな気象台へと連れて行った。取材行程とは関係のない予定に、何だろうと首を傾げていると、目の前にあった用途の分からない施設の天井がパカっと空いて、その中から大きな風船がひとつ飛び立ったのだ。朝8時半ちょうどのあっという間の出来事。聞けば、毎朝8時半と毎夜20時半キッカリに、風船は人知れず大空に放たれていると言う。それが日本中、いや世界中の気象観測所で同時刻に毎日行われてると言うのだ。なんだかその謎めいた儀式のような行為にすっかり魅せられてしまったのだ。

正式名称はラジオゾンデという。風船の先のヒモには小さな気象観測器がぶら下がっており、上空の気温や湿度などが無線によって地上までデータを飛ばしている。そうすることで、より正確な気象情報が得られるという。上空30km程度で風船は破裂し、観測器は落下する。観測器には見つけた人は気象観測所まで連絡をくださいと書いてあるが、めったに連絡が来ることはないらしい。

南大東島での予備知識なしでの放出に写真を撮り損ねた僕は、茨城県筑波にある高層気象台へと向かった。筑波の気象台は有人であるため、風船の放出は人の手によって行われている。朝8時半に間にあうように余裕を持って筑波に到着する。すでに係の人が準備を進めている。8時半キッカリの放球に少しも遅れてはならないため、全ての準備に集中しているのだ。厳かとも思える雰囲気にこちらまで緊張しながら、僕もあらゆる予測をたて、アングルを決める。白い小屋から係の人が風船を携えて出てきた。しかし予想よりも風船に繋がれているヒモが長い。僕はダッシュで後退し、引きをとる。そして8時半を知らせる合図音が鳴ると、一瞬静まり返り、風船は放たれた。あんなに大きかった風船はみるみるまに小さくなって、青空を漂っている。「今日は天気が良くて良かったですね、いつまでも風船が見えます」やっと係の方が話しかけてくれた。

平野太呂

ひらのたろ 写真家。武蔵美術大学卒業。主な作品集に『POOL』(リトルモア)、『ボクと先輩』(晶文社)、『Los Angeles Car Club』(私家版)などがある。撮影は、つくば高層気象台にて。