柳本浩市さんが残してくれたもの。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

柳本浩市さんが残してくれたもの。

本誌にも登場した稀代のコレクター、柳本さん、ぐっすり眠ってください。

先月号の『カーサ ブルータス』に収納の達人として登場した柳本浩市さん。彼の訃報が届いたのは、その発売日の数日前のことだった。享年46歳。あまりに早すぎる、何の前触れもなかった死を、多くの人はまだ受け止めきれていない。死因は虚血性心不全、いわゆる突然死だという。

柳本さんは20代のころから超人的なコレクターとして有名だった。幅広い分野の膨大な品物を集め、総数は約50億点とも。収集品は本誌はじめ多くの媒体で紹介され、展覧会にも貸し出された。その中核は著名デザイナーの作品を含む古今東西のあらゆる印刷物で、オリンピック、エアライン、CI関連は特に貴重なものが多い。小学生時代のスクラップブックに始まり、印刷物や資料を収めたファイルは40万冊以上と伝えられる。

パッケージを公開した2008年のコレクター特集。

プロダクトも同様で、20世紀後半のプラスチック製品、北欧のヴィンテージ品、デザイナーのエディション作品などを大量に所有。ただし堪能するとあっさり手放すのも常だった。世界中の洗剤や牛乳のパッケージの収集にも熱心で、面識のあるオランダ人デザイナー、ピート・ヘイン・イークの特注の棚にぎっしり並べていた。

さらにあらゆるデザインについて、彼が話しはじめるとネタが尽きることはなかった。柳本さんは、ものだけでなく知識のコレクターでもあったのだ。大量のファイルに収めた資料の中身の大半は、頭の中に詰まっていたに違いない。彼には1日に1〜2時間しか眠らないという逸話があったが、知識量と資料整理に要する時間を考えると納得するしかない。

ただし、それほどのコレクションも彼にとっては手段や結果にすぎなかった。ものや情報について考察し、新しい文脈を作り、そして社会に生かすのが最終的な目的だったからだ。出版やプロデュースを行う自身のレーベル〈グリフ〉はその体現を目指したし、KDDIの〈IIDA〉の仕事にも同様の意図を感じる。このプロジェクトでは次々に若手デザイナーを発掘、知識に裏づけられた目利きぶりを発揮した。またブログ、SNS、主宰する飲み会を通しても独自の発信を行い、特にオリンピックに関する最近のフェイスブックの投稿は鋭かった。こうした創造性は広く認められつつあり、まさに「これから」というタイミングにもたらされたのが、今回の悲しすぎる知らせだった。