デザイナー仲條正義とは何者か? 葛西薫と服部一成に聞きました。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

デザイナー仲條正義とは何者か? 葛西薫と服部一成に聞きました。

作品集『仲條 NAKAJO』が出版され、各地で関連展示が開かれている今、改めて注目を集めているグラフィックデザイナーの仲條正義。その創造の秘密に迫るため、編集委員を務めた世代の異なるふたりのデザイナー・葛西薫と服部一成に、仲條正義の作品と人について聞きました。

『仲條 NAKAJO』9,350円(ADP)。
個展『スタジオ』(画廊河野、現ギャラリー5610)出品作品 1973年 作品集『仲條 NAKAJO』より(以下同)
ハート型のモチーフが手足をつなぐようにリズミカルに並ぶ函から、持ち重りする本を取り出して開くと、目に飛び込んでくるのは斬新な青と黄の扇形のグラフィック。いきなり新作から始まるのかと思いきや、実はどちらも仲條正義の初個展『スタジオ』(1973年)で発表された作品なのだ。出会い頭の驚きも醒めやらぬままページをめくれば、めくるめく仲條ワールドが600ページ以上も繰り広げられる。
個展『スタジオ』(画廊河野、現ギャラリー5610)出品作品 1973年 
見慣れたパッケージやロゴデザイン、雑誌の表紙やポスター、挿絵など主な作品が年代順に網羅されている。なのに50年近く前の作品と現在の作品が何の違和感もなく連続しているのは驚きだ。仲條正義デザインの秘密はどこにあるのか、作品集『仲條 NAKAJO』編集委員の葛西薫と服部一成に聞いてみた。

●葛西薫インタビュー 「いつもデザインが踊っている」

〈トラヤあんスタンド新宿店〉壁画 2016年 虎玄 art direction, creative direction 葛西薫、creative direction 山本康一郎
『家庭画報』扉ページ 1975年 世界文化社
〈セゾン生命〉広告 イラストレーション 1990-94年 セゾン生命 art direction 葛西薫 creative direction 岩崎俊一
『暮しの手帖』表紙イラストレーション 2007-17年 暮しの手帖社
Q 葛西さんと仲條正義さんのご関係はいつ頃からだったのでしょうか。

葛西薫 仲條さんとの初対面は40年近く前になります。〈サントリー〉のCM用に、図形のパターンをつくってもらいました。『家庭画報』に掲載された野菜シリーズから5年後ぐらいで、僕にとってあのモダンな幾何学的なデザインが仲條さんのイメージでした。

その後、セゾン生命の広告のためのイラストレーションをお願いしたり、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)やADC(東京アートディレクターズクラブ)の会合でもよく顔を合わせていました。近年も〈トラヤカフェ・あんスタンド(現:トラヤあんスタンド)〉の仕事でご一緒しています。

Q 作品集『仲條 NAKAJO』の編集委員を引き受けられた経緯を教えてください。

葛西 版元の出版社ADPの久保田啓子さんが、仲條さんに作品集を出すよう説得するために「葛西と服部一成さんを付けるから、仲條さんは何もやらなくていいですよ」と、説得したんです。

Q 実際の編集作業は服部さんに委ねたわけですね。

葛西 世代の違う服部さんが大先輩の仲條さんの作品をどう構成するか、見てみたいと思いました。服部さんは僕なんかよりずっと“仲條フェチ”なので、どの作品を選んで大きく見せるのか、楽しみに見守る立場でした。テキスト原稿は文学全集に付いてくる月報のようにしようと相談して、我々裏方の文章とともに差し込みにしました。なるべく説明を加えず、絵やデザインだけで、見てのとおりというものにしたいと。

実は3年前にいったん完成しかけていたのですが、そこからまた新作を追加したりして、やっと完成したというわけです。
『花椿』1994年8月 資生堂 photo 三浦憲治 styling 安部みちる hair, makeup Azuma
レーモン・クノー『文体練習』ブックデザイン 1996年 朝日出版 translation 朝比奈弘浩
〈東京銀座資生堂ビル〉V.I. 2001年 資生堂(一部)
〈ザ・ギンザ〉イラストレーション c.1977年 ザ・ギンザ
Q 仲條さんの作品集を編集するというのは責任重大でしたね。

葛西 長年付き合っていても、仲條さんの凄さが見えないプレッシャーになるんです。仲條さんは「ぜんぶ任せる。出来上がるまで見ないよ」とおっしゃる。服部さんはもっともっと大変だったと思います。ふだん僕の作るものに対しても、正面切って感想を言われることはそんなにありませんが、一言「あれいいね」と言ってもらえると、ものすごく嬉しいです。今回の作品集については「ご苦労さんだったね、こんな立派な本にしてくれて」と言っていただいたそうで、ほっとしました。ほんと仲條さんの一言は重みがあります(笑)。

Q 仲條さんの一番の魅力はどんなところでしょうか?

葛西 いつもデザインが踊っている。色も含めて若々しくアバンギャルドで。仲條さんは退屈が嫌いなんじゃないかな? 作品集が出来上がって全体を貫く1本の線を見つけようとしても、デザインの判断基準が見つけられない……。仲條さんにしか表せないものがあるんですね。

以前「デザインは言葉から生まれますか? 形から生まれますか?」と尋ねたところ、「形から」という返事でした。その一方で、レーモン・クノーの『文体練習帳』の文字組みを見ると、オーソドックスをすべて知った静けさがあり、底知れないセンスを感じる。『仲條 NAKAJO』は、ここに立ち帰れば“何でも好きにやっていいんだよ”という、大げさに言えば生き方のバイブルのような気がします。

とにかく全てが新しく、全てが懐かしい。写真のディレクションも独特で、情に流されていない気がします。「勇気があるなあ」と、いつも思う。どこかに特有の退廃や影を感じるんだけど、世代的にそういうことを跳ね返すのではないでしょうか。落語好きでもあるので、人生の苦悩を笑い飛ばすところがあるのかもしれません。

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