FOOD
京都”ナチュラルワインの伝道師”〈エーテルヴァイン〉江上昌伸が開いたビストロ。
February 5, 2019 | Food, Travel | photo_Yoshiko Watanabe text_Mako Yamato
京都にナチュラルワインを根付かせた立役者といえば〈エーテルヴァイン〉店主・江上昌伸さん。その江上さんがレストランを開いた。ワインと料理をどう楽しませてくれるのか、膨らむ期待にしっかり応えてくれる、今、京都で最も注目すべき一軒だ。
あの〈エーテルヴァイン〉がレストランを出す。そんな噂が京都を駆けめぐったのは去年の初夏。注目が集まる中、店から歩いて数分の岡崎エリアに〈デュプリー〉は誕生した。「誤解されがちなんですが〈デュプリー〉は、〈エーテルヴァイン〉ではなくて僕個人が開いたレストラン。ワインもちゃんと仕入れているし、割り当てのような希少なものはなかなか売ってもらえない」と江上さんは笑う。では、どうしてレストランを開くことになったのだろう。「レストランをなんて気持ちはこれっぽっちもなかったけれど、この物件の話が降って湧いてきて。そこで思い描いたのが頭の中の2パーセントくらいを占めていた、"ワインの造り手が来てくれた時にもてなす場があればいいな"ということ」。思ってもみなかったところから、レストランづくりはスタートした。
建物は江上さんの頭の片隅にもまったくイメージがなかった日本家屋。落ち着いた和の外観から中に入れば一変し、どこの国ともつかないものの温もりを感じる空間が広がる。「内装はすべて自分で、大工さん左官屋さんとやりとりしながら作りました」。床はたまたま手に入れることができたフランスのアンティークタイルを敷き詰めた。
「ワインもこぼすだろうし、長く使うことで歴史が染みわたっていくものにしたかった」。 壁は土壁のようでいて、触ると硬い、不思議な手触り。「土っぽくしたかったけれど、剥がれ落ちても困る。じゃあ硬い壁にすればいいと、モルタルに色と小石とスサを加えて塗り、洗い出しました。本気で研ぎ出したいわけじゃないけれど、小石の出っ張りはなくしたい。見たこともやったこともないという左官屋さんを説得するために、工務店の人とサンプルを作ってやってもらいました」。家具は京都・京北に工房を構える〈樹輪舎〉でのオーダー。「ワインの作り手に、自分のカーブの中には磁力のある鉄材を持ち込まないという人もいて、僕もほぼ木だけを使って店を作りました」。
「ワインもこぼすだろうし、長く使うことで歴史が染みわたっていくものにしたかった」。 壁は土壁のようでいて、触ると硬い、不思議な手触り。「土っぽくしたかったけれど、剥がれ落ちても困る。じゃあ硬い壁にすればいいと、モルタルに色と小石とスサを加えて塗り、洗い出しました。本気で研ぎ出したいわけじゃないけれど、小石の出っ張りはなくしたい。見たこともやったこともないという左官屋さんを説得するために、工務店の人とサンプルを作ってやってもらいました」。家具は京都・京北に工房を構える〈樹輪舎〉でのオーダー。「ワインの作り手に、自分のカーブの中には磁力のある鉄材を持ち込まないという人もいて、僕もほぼ木だけを使って店を作りました」。
そしてなによりも気になるのは、供されるワインと料理。「僕が好きなのは土と太陽と地下水が作りあげたブドウを使い、野生の微生物の働きで成り立たせたワイン。名もない村の造り手でも、強い意志と哲学を持って取り組んだワインは強い作品として身体の中に入ってきます」。レアなものを追求するのではなく、素晴らしくてもまだ深く追い求められていないものを飲んで欲しいとセレクトする。
「食材もちゃんと大地に根ざして、生き抜いた野菜、魚、哺乳類には真っ当なエネルギーが備わっています。食事は素材を生かした、好きなワインと似た質感の料理を」。料理は長年の友人でもある金子豪シェフが担当。大原の農家から手に入れる無農薬野菜や、家畜として育てられたのではない猪や鹿などを使い、炭火で焼く、蒸し煮など極めてシンプルに仕上げられている。
「料理はワインを意識せずに、食材を与えてくれる人、自然から分け与えられた命のことだけを考えて作ります。食材も希少なものや高級ではないものを使いたい。そこにワインを合わせてもらうだけ」と金子さん。2人で料理について話す時間も多いという。「たとえば料理の塩はギリギリまで抑える。そうすることで素材本来の持ってるよさを際立たせることができるけれど、刺激は弱い。あるラインを越えれば刺激的ではあるけれど、素材の持ち味は消えてしまう。それに喉が渇いてワインを飲む、乾きを癒すためのものにはなって欲しくないという気持ちもあります。質感、テンションという部分で、ワインと料理が近い部分で触れ合って昇華できれば」。
「料理はワインを意識せずに、食材を与えてくれる人、自然から分け与えられた命のことだけを考えて作ります。食材も希少なものや高級ではないものを使いたい。そこにワインを合わせてもらうだけ」と金子さん。2人で料理について話す時間も多いという。「たとえば料理の塩はギリギリまで抑える。そうすることで素材本来の持ってるよさを際立たせることができるけれど、刺激は弱い。あるラインを越えれば刺激的ではあるけれど、素材の持ち味は消えてしまう。それに喉が渇いてワインを飲む、乾きを癒すためのものにはなって欲しくないという気持ちもあります。質感、テンションという部分で、ワインと料理が近い部分で触れ合って昇華できれば」。
農作物であるぶどうで作られていることを強く、改めて教えてくれるワイン。素材そのものの力強さに驚かされる料理。そして温もりに満ちた空間。そこにはワインへのあふれんばかりの愛情を実感する、江上ワールドが待っている。
〈DUPREE〉
京都府京都市左京区岡崎西天王町68-1TEL075 746 7777。17時30分〜23時(22時LO)。月曜、第1・3日曜休。料理はアラカルトが中心。前日までの予約でおすすめコース7,000円もある。