『杉本博司:天国の扉』展リポート。遠い異国を旅した少年たちは何を見たのか。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

『杉本博司:天国の扉』展リポート。遠い異国を旅した少年たちは何を見たのか。

桃山時代、キリスト教布教と交易のため、大きな船がやってきた。そして、日本からもキリスト教の本拠地イタリア、スペインに向かった若き使節たちがいた。彼らは初めて出会う西欧文明の何を見たのか。ルネサンスの美術や工芸は彼らの目にはどう写ったのか。杉本博司の新しい展覧会はそれがテーマである。

(左から)《シエナ大聖堂、2016》、《ヴィラ・ファルネーゼの螺旋階段 II、2016》(3枚組の一部)。 courtesy of del Polo Museale del Lazio - Ministero dei beni e delle attività culturali e del turismo italiano
杉本博司は現代美術作家として写真作品や立体作品を制作し、建築家としては美術館の内装を手がけたりもする。神奈川県小田原市に今秋オープンした〈江之浦測候所〉は杉本が施主でもあり、彼が共同主宰する新素材研究所(所長:榊田倫之)が設計を担当した。ここは、元は蜜柑畑だったところに能舞台や茶室、全長100メートルのギャラリーなどを備えた複合施設になっている。

「測候所」の名前の由来は個々の建造物が太陽の運行に合わせて配置されていることによる。杉本が作りたい土地に作りたいもの(能舞台や茶室、ギャラリー)を作りたいように作った、簡単にいえば杉本によるテーマパーク「スギモトランド」である。構想から20年、設計を始めてから10年、建設に3年以上を費やした。
相模湾をのぞむ見晴らしの良い丘に位置する〈江之浦測候所〉の光学硝子でできた能舞台。(c)小田原文化財団 / Odawara Art Foundation
1980年代からの杉本の活動を見ていた者からすると、当初は大判カメラとフィルムを使い、彼以外誰も撮らない、誰にも撮れないような作品を見せてくれた作家である。ニューヨークの〈アメリカ自然史博物館〉のジオラマを写真にすることで実際の風景と見まがうようにリアルに見せてくれたり、映画一本分の光だけ(それはつまり映画一本をたった一枚の写真に封じ込めること)で壮麗な映画館のインテリアを照らし出したり、世界各地の海を画面上半分に空、下半分に海。この水の惑星をそうやって切り取って見せてくれる。

杉本は自身の展覧会のキュレーションはもともと手がけていたものの、近年ではコンセプトに基づくストーリーを構想し、自作と古美術品を選定し、インスタレーションも自身で行う。パリの〈パレ・ド・トーキョー〉と〈東京都写真美術館〉で開催した『杉本博司:ロスト・ヒューマン』展は杉本が人類の終焉の事例を33案ほど考えてそのストーリーを自身の作品や古美術品、古道具で構成したインスタレーションだった。
《ヴィラファルネーゼの螺旋階段室》(連作の一部)ゼラチンシルバープリント。 courtesy of del Polo Museale del Lazio - Ministero dei beni e delle attività culturali e del turismo italiano
現在、ニューヨークの〈ジャパン・ソサエティ〉で開催中の『Hiroshi Sugimoto: Gates of Paradise(杉本博司:天国の扉)』も構想と作品選定、インスタレーションを杉本が手がけている。テーマは安土桃山時代、キリスト教の信仰が日本で高まっていた時代に、その使節としてヨーロッパを訪問し、スペイン国王やローマ法王に謁見した伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティノという4人の少年たちがいた。彼ら天正遣欧使節の旅の足跡と彼らが見たもの、見たであろうものを杉本的な世界観で展観するものだ。

天正遣欧使節の話を知っていくと、遠く海を渡ってヨーロッパに行くことのロマンに胸が熱くなる。しかし、その8年5カ月にわたる旅の間に日本の体制が変わり、帰国した使節たちを待っていた試練と悲劇に心を痛めずにはいられない。そんな様々な複雑な思いを抱かせる使節たちの偉業を巡って、多くの論文や文学作品が書かれてきた。ここでは天正遣欧使節に関するいくつかの本からの引用とともに、今回の杉本の展覧会を見ていきたい。