知れば知るほど背筋が凍る! 中野京子が選んだ、本当に“怖い絵”。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook line twitter

知れば知るほど背筋が凍る! 中野京子が選んだ、本当に“怖い絵”。

2007年に出版されて以来、いずれもベストセラーとなった中野京子著『怖い絵』シリーズ。ページをめくるたびに背筋に冷たいものが走る。その「怖い絵」の世界観が展覧会に! 特別監修した中野さんにお話を聞きました。

ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》(1833年油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, (c)The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902 『怖い絵』シリーズの表紙になった絵の中で唯一、日本で展示されたことがなかった。大きすぎて館によっては入り口を通れないこともあるそう。 
一見、美しい絵画の裏には殺人や陰謀、悲劇や怨恨といった恐怖のドラマが潜んでいることがある。中野京子著『怖い絵』はその恐ろしさを解説して人気となったシリーズだ。聖書やギリシャ・ローマ神話の血なまぐさい物語、歴史の残酷な運命に翻弄される人々、そういった背景を知ると西洋絵画はもっと面白くなる。展覧会「怖い絵」には中野さんが選んだ、とびきり恐ろしい絵が並ぶ。

約80点の絵画・版画の中でもひときわ強烈なのがポール・ドラローシュの《レディ・ジェーン・グレイの処刑》だ。縦約2.5m、横3mの大画面の中央に目隠しをされ、白い服を着た若い女性がひざまずいている。右には大きな斧を持った男性が。このあと、女性はこの斧で斬首されてしまうのだ。若く美しい女性を襲う恐ろしい運命に胸が痛む。でも彼女はなぜこんな不条理な目にあうのだろう?
兵庫県立美術館での展示の様子。ゴージャスな額縁にも注目。
レディ・ジェーン・グレイはイギリス最初の女王。が、在位わずか9日で政争に巻き込まれ、ロンドン塔に幽閉されて処刑されてしまう。彼女はそのとき16歳と4か月、戴冠式のため正門から入ったロンドン塔から出ることなく短い一生を終えた。

目隠しをされたジェーン・グレイは自らの首を差し出すための台を手探りしている。右に立つ司祭がその手助けをする。左に座る侍女はジェーン・グレイのマントや宝石を膝に置き、今にも失神しそうだ。マントなどは首を斬るのに邪魔になるので、脱がなければならなかったのだ。その奥ではもう一人の侍女が背中を見せて泣いている。

「この絵を見るたびにオペラのようだな、と思うんです。侍女や処刑人たちがそれぞれ順番にアルトやバスで独唱したあと、ジェーン・グレイがソプラノで独唱、歌い終わるとジェーン・グレイにだけスポットライトがあたり、さらに暗転、という具合に」(中野京子)

ジェーンは花嫁衣装を思わせる艶やかな白い服を身につけているが、実際には黒い服を着て、目隠しもしてなかったとも言われる。しかし絵ではこのあと彼女の白い服も肌も血に染まる、そんなことまで想像させて実にドラマチックだ。

絵そのものが辿った運命も面白い。1834年の発表直後は大きな反響を呼ぶが、個人蔵となって人目に触れる機会が激減して次第に忘れられ、ようやく所有者の没後、イギリスに渡り、〈テート・ギャラリー〉に保管される。ところが1928年の洪水で行方不明に。全くの偶然から発見されたのは1973年のこと。その後〈ナショナル・ギャラリー〉に展示されると観客が皆その絵の前で立ち止まり、歩き回ってはしみじみと鑑賞するため床がすり減ってしまい、修理を余儀なくされた。