トーマス・マイヤーは日本で何を感じたか? | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

トーマス・マイヤーは日本で何を感じたか?

“Don't cry later.”

戦後日本のモダニズム建築の美に、改めて感銘を受けたトーマス・マイヤー。
しかしその中には、存続の危機にあるものも多い。「あとで嘆くことのないように今、行動すべきだ」。トーマスの警告は重い。

今回、日本の旅で見たモダニズム建築はどれも素晴らしいものだった。谷口吉郎、前川國男、丹下健三といった戦後の日本の建築家たちが古い因習にとらわれず、形態や素材などの新しい方法論を切り開こうと格闘していた時期のものだ。

特に〈ホテルオークラ東京〉には、来るたびに目を見張る思いがする。私は1980年代半ばに初めて日本に来たとき、たまたまこのホテルに泊まった。そしてロビーに入った途端、恋に落ちてしまった。世界で最も美しい空間が持つマジックにかかってしまったのだ。丹下健三の〈国立代々木競技場〉や〈東京カテドラル聖マリア大聖堂〉には、構造やエンジニアリングが建築的な美となって現れている。村野藤吾の〈日生劇場〉も宝物のような建築だと思う。

日本のモダニズム建築がヨーロッパ、アメリカとそれほど大きく違っているとは思わない。しかし、日本には欧米とは異なる文化背景がある。桂離宮に代表されるような「マイナスの美学」だ。日本の建築は装飾や余分な要素を省くモダンな方法論を古くから実践しており、それがモダニズム建築にも受け継がれている。

ところが最近、これらモダニズム建築が取り壊しの危機にさらされていると聞いた。ホテルオークラは2015年から建て替えのための工事が始まるそうだ。日生劇場も、周囲のビルは大手不動産会社の再開発で取り壊されている。取材に応じてくれた劇場のスタッフは皆、建物に誇りと愛情を持っているけれど、もしこのビルが不動産ファンドなどに買われてしまったら、彼らはそんなことなどおかまいなしにこの美しい建築を破壊してしまうかもしれない。

これら戦後の建物の多くが保護のための方策がとられていないのも問題だ。古い寺院建築や城郭の名作は国宝や重要文化財などに指定されて、簡単に改変したり取り壊したりできないように法律で守られている。しかしオークラや日生劇場はそういった措置をとられていない。私から見ると絶対にその価値があるはずであるにもかかわらず、だ。

私は建築がその都市の顔をつくると考えている。一例としてシカゴにはスカイスクレイパーからフランク・ロイド・ライトまで個性的な建物が建ち並び、それが街を特徴づけている。日本ではモダニズム建築がその都市の顔になっている例が多い。例えばオークラは私たち外国人にとって「東京の顔」といえる建築だ。どこを見ても他の国の都市と代わり映えしない景色にがっかりさせられるけれど、オークラはここにしかない時代の証言者だ。もしホテルオークラがなくなってしまったら私たちは東京にまで旅をする理由がなくなる。その都市で見るべきものがなくなってしまうからだ。

こんな貴重な建物が消えてしまうことはここに何度も通ってきた私たちだけでなく、未来の世代にとっても大きな損失になる。この美しいマスターピースが二度と見られなくなってしまうのだ。

それを防ぐためには建物をきちんと整備して、使い続けることが重要だ。本来の目的と離れたあまりにコマーシャルな使い方や、建物へのリスペクトが感じられないような使い方には賛成できないけれど、人が入って生き生きとした空間であったほうがいいと思う。また、保存のために国や自治体の指定を受けることも重要だ。

私たちはこの危機に対してすぐに行動しなくてはならない。失われたあとで嘆くことのないように。