トーマス・マイヤーは日本で何を感じたか?

DAY 2

8:00am ホテルオークラ東京

1962年竣工。設計:谷口吉郎ほか。帝国ホテルの経営にも携わった大倉喜七郎が「世界に通用する本物のホテルを」との思いから旧大倉邸跡地に建てたもの。設計は5人の建築家による設計委員会が担当し、そのうちの一人、谷口吉郎が玄関ホール、ロビー、メインダイニングなどを担当した。建て替えのため、2015年9月から工事が始まることになっている。

“東京にはこんな、顔になる建築が必要だ。”

10:00am 国立代々木競技場

1964年竣工。設計:丹下健三。1964年、戦後日本を国際的に認知させるイベントと位置づけられた東京オリンピックで水泳競技場として建てられた。世界でも珍しい吊り屋根式の構造で、上から見ると半円を少しずらして向かい合わせたような形に。全体がゆるやかな曲線を描く。

“構造そのものがアート作品になっている。”

1:00pm 前川國男事務所

1954年竣工。設計:前川國男。鉄筋コンクリートによる細い柱や梁を基本にした簡素なスペース。吹き抜けもあり、小さいながらもリズムがある。前川は1930年、ル・コルビュジエ事務所勤務を終えて帰国し、アントニン・レーモンド事務所で働いた後、35年に独立。この事務所は3つ目のものだった。前川は当時、〈神奈川県立音楽堂〉を手がけるなど円熟期にあった。柳宗理や建築写真家の事務所と同居していたのは当時、建築家やプロダクトデザイナーが協働する事例が多かったからでは、と柳工業デザイン研究会の柳新一さんは言う。

“モダニズムの巨匠の原点を見る気がする。”

3:00pm 東京カテドラル聖マリア大聖堂

1964年竣工。設計:丹下健三。高さ39.4m、8面のHPシェル(双曲放物面)が組み合わされた建物。〈国立代々木競技場〉とはまた違う構造の冒険による作品。

“天から神の光が降ってくるようだ。”

5:00pm 国際文化会館

1955年竣工。設計:前川國男、坂倉準三、吉村順三。宿泊室、会議室、図書室、食堂などがある国際的な文化交流の拠点。ジャーナリスト、松本重治が発案した。

“東京の真ん中とは思えないピースフルな場所だ。”

2日目も朝から建築行脚に励むトーマス。まずは宿泊している〈ホテルオークラ東京〉のロビーに座り、しみじみと周囲を眺める。谷口吉郎がデザインし、富本憲吉のモチーフなどで飾られた空間だ。

「初めて日本に来たとき偶然ここに泊まったのですが、それ以来、東京では必ずここに泊まることにしています。日本の伝統と近代が融合した、唯一無二の建物です」

次はトーマスのリクエストで、〈国立代々木競技場〉へ。戦後日本建築界の巨匠、丹下健三の傑作だ。2本の柱の間にケーブルを渡し、さらにそのケーブルから両側にケーブルを吊るすという二重の吊り構造でつくられている。これにより、柱のない大空間を実現させた。トーマスは外側から見える吊り構造を見て、「アレクサンダー・カルダーのモビールみたいだ」とつぶやく。中に入るとケーブルで吊るされた屋根がそのまま天井になっているのが見える。

「構造そのものがアートのようなマスターピースです。光の取り入れ方も実に計算されている。ブラジリアのオスカー・ニーマイヤーの建築を思い出しました」

トーマスは、その丹下健三の師である前川國男が1986年に没するまで働いていた事務所を訪れた。もちろん設計は前川自身。鉄筋コンクリート造、3階建ての建物だ。ここには前川の事務所のほか、柳宗理のオフィスがあり、今も後継者たちがそれぞれの事務所を守っている。前川のオフィスは2階と3階、細い柱や大きな窓が開放的な空間だ。55年にル・コルビュジエが来日した際、この事務所にも訪れたという。トーマスは、前川が残した蔵書や模型、古い写真などを熱心に見ている。

すぐ近くには「柳ショップ」があり、柳宗理のプロダクトが買える。トーマスは柳デザインのカトラリーなどを愛用しているという。「最初は誰のデザインなのか知らずに買ったのだけど、それ以来とても気に入っている」

丹下健三が〈国立代々木競技場〉と同時期に設計していた〈東京カテドラル聖マリア大聖堂〉もトーマスがぜひ見てみたい、と思っていた建築だ。上から見ると十字架に見える建物の形は、丹下が「HPシェル」という構造を採用したことで生まれたもの。〈国立代々木競技場〉と同様に、内部にその構造がそのまま現れてダイナミックな曲線を描く。

「上から入る光が、神の光が降ってくるように感じられる、とても印象的で美しい建物です。丹下が構造にチャレンジしていたのがよくわかります。〈国立代々木競技場〉もそうですが、都心のオアシスのような場所ですね」

日も傾いてきたけれど、最後に前川國男、坂倉準三、吉村順三の3人の共同設計による〈国際文化会館〉へ。調和のとれた建物だが、よく見ると大谷石やバルコニーの手すりは坂倉、和を思わせる端正さは吉村、コンクリートの部材を巧みに組み合わせたディテールは前川、と個性が読み取れるのも面白い。こうしてモダニズム名建築を追いかけて一日、東京を走り回ったトーマスは、満足そうにホテルオークラに戻っていった。