てんぷら界に新スター現る! | 寺尾妙子のNEWSなレストラン | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

てんぷら界に新スター現る! | 寺尾妙子のNEWSなレストラン

てんぷら界に次々、スターを送り込んできた〈てんぷら 山の上〉から、またひとり、独立を果たした。〈てんぷら前平〉店主、前平智一が築くてんぷらの世界とは?

パーフェクトな揚げ加減にカラリ! という音が聞こえそうだが、この瞬間も職人は箸から海老の状態を感じ取っているのだ。
てんぷら店のオープンが続いている。記憶にある限り、寿司やフレンチと違って、てんぷらはまだブームになっていない。いや、江戸時代にあったが、少なくともブームというほどのムーブメントは起こしていないはずだ。

とはいえ、てんぷらには根強いファンが一定数いて、1週間後の予約を入れようと、めぼしい店から順に10軒以上あたっても席がないことなんてザラ。ちょっといい店ができるとてんぷらファンが殺到し、あっという間に「予約困難な店」となってしまう。
2本分の活巻海老の脚と身。塩水で生かしておいた巻海老を調味せず、衣をつけて揚げるだけ。衣の中には、海老がもつそのままの塩味と、油の中で水分をほどよく抜くことで濃縮した旨みが閉じ込められている。
きっと、9月にオープンした〈てんぷら前平〉もすぐにそうなるだろう。なんといっても店主、前平智一は〈てんぷら 山の上〉の出身。〈てんぷら 山の上〉といえば、銀座〈てんぷら近藤〉店主、近藤文夫や京橋〈てんぷら深町〉店主、深町正男といった日本を代表するてんぷら職人を輩出し、昭和の文豪、池波正太郎が通ったことで知られる名門。同店に約20年在籍し、そのうち9年近くを六本木店の料理長として務めた前平さんが独立したと聞けば、ファンなら見逃せない。
9席のカウンターを前に揚げ場に立つ前平。揚油は〈てんぷら 山の上〉と同じくサラッとした味わいの太白とマイルドで香り控えめな太香(淡)、2種の胡麻油のブレンド。それ以外の塩、天つゆ、素材の仕入先などはオリジナル。
「油に入れた瞬間、取り返しがつかない料理なんですよ」

おいしさとは、今この瞬間であり、はかなさである。そのことを身にしみて知る料理人の言葉だ。

「素材や衣、油の質や温度、その瞬間、瞬間の室温や湿度を敏感に感じ取り、油の中の素材を箸で持った感触で、揚がり具合がわかります。それは人に教えてもらうものでも、教えることができるものでもなく、自分だけが感じる感覚。ベストの揚げ具合を見極めるのが、てんぷら職人の仕事なんです」

わずか1秒、1度で変わってしまう世界なのだ。
「芽ネギと小柱の海苔巻き」。いまだかつて芽ネギを主役にした料理があっただろうか。
たとえば、この店で編み出した「芽ネギと小柱の海苔巻き」は芽ネギを主役にしたシグニチャーディッシュ。揚げ時間をギリギリまで短くすることで、ハッとするほどの清々しさを芽ネギから引き出した。

「小柱の火の通し方は、芽ネギを邪魔しない程度の甘さを引き出すため、極レアに。正直、うちの代表作です」。

地味な見た目だが、まるでメガネをとったら美少女! な展開もよく、なにより実際、衝撃的においしかったことで納得。