カール・ラガーフェルドが愛したデザイン|石田潤のIn the mode | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

カール・ラガーフェルドが愛したデザイン|石田潤のIn the mode

”ファッション界の帝王” カール・ラガーフェルドがこの世を去った。メンフィスやアール・デコの家具コレクターであり、建築への造詣も深かった彼のデザイン愛を振り返る。

〈国立代々木競技場〉の隣に出現した『モバイルアート』の特設パビリオン。UFOあるいは未知の生物のような建物はザハ・ハディドのデザイン。 photo_Yoshiaki Tsutsui
建築への造詣も深く、2008年に東京でも行われたシャネルの『モバイルアート』展では、パビリオンのデザインをザハ・ハディドに依頼した。「アンビルトの女王」と謳われた彼女を抜擢するのはリスクも大きかっただろう。丹下健三の名作〈国立代々木競技場〉の隣に出現した巨大な白い建物は、未来都市のような景色をそこに創出させた。またロベール・マレ=ステヴァンスの〈ヴィラ・ノアイユ〉や安藤忠雄の〈ヴィトラ・セミナーハウス〉を自ら撮り下ろし写真集を作ったこともあり、安藤には別荘の設計も依頼していた。その後も石上純也に図書室の設計を頼み、これらのプロジェクトはいずれも実現されなかったが、もし出来上がっていたら、カールはそこにどのような空間を作り上げたのだろうかと思いは尽きない。
2014年にドイツ〈フォルクヴァンク美術館〉で行われた『Karl Lagerfeld - Parallel Contrasts』展では、本に埋め尽くされたカールのスタジオを再現。 picture alliance/アフロ
最後に振り返りたいのは、彼の本への愛だ。読書家で30万冊以上を蔵書していたカールは、パリのサンジェルマン・デ・プレにある書店〈7L〉を経営し、名出版人ゲルハルト・シュタイデルとともに「7L Edition」という出版社も創設した。「7L Edition」のホームページには次のような言葉がある。「7Lは毎シーズン数冊の本だけを作ります。美しい本作りには時間が必要です。スクリーン時代において、本はこれまでよりも美しく印刷されるべきであり、よりよく書かれるべきです」。

新しもの好きで、スピードが重視されるファッション界に生涯身を投じたカールだが、ファッションデザインと並んで情熱を注いだのは本作りだったのかもしれない。1999年に出版された「7L Edition」の最初の出版物は、バウハウス出身の建築家・山脇巌の写真集。1930年代に撮影された山脇のプリント作品をコレクションしていたカールは、オリジナルプリントに忠実に再現し、『IWAO YAMAWAKI』としてまとめた。“ファッション界の帝王”カール・ラガーフェルドは、突出した才能を見出し、引き上げる優れたキュレーターでもあったのだ。

カール・ラガーフェルド

1933年ドイツ・ハンブルグ生まれ。14歳でパリに移り住む。16歳で国際羊毛事務局主催のコンクールで優勝(コート部門)し、ピエール・バルマンのアシスタントとなる。1958年、最初のコレクションを発表。1965年よりフェンディ、1983年よりシャネルのデザインを手がける。2019年2月19日、パリにて逝去。

石田潤

いしだ じゅん  『流行通信』、『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。