彼はなぜ姿を消したのか? 映画『We Margiela マルジェラと私たち』|石田潤のIn the mode | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

彼はなぜ姿を消したのか? 映画『We Margiela マルジェラと私たち』|石田潤のIn the mode

もはやファッション界の神話的存在になりつつあるマルタン・マルジェラ。彼とともに「メゾン マルタン マルジェラ」を作り上げた人々の貴重な声と記録映像からなるドキュメンタリー映画がまもなく公開される。ブランドの誕生秘話、そしてマルタン・マルジェラが突然ファッション界から姿を消した理由とは?

アトリエにはマーケットで見つけたヴィンテージなど様々な素材が集められた。
映画は、真っ白の画面とともに、マルタンのビジネス&クリエイティブパートナーであったジェニー・メイレンスの言葉とともに始まる。メディアの前にほとんどその姿を現わすことのなかったマルタンのように、映画の中にジェニーが現れることはない。彼女もまたファッション界における神話的な人物だ。

1980年代初頭に、ブリュッセルで若手デザイナーを扱うセレクトショップ〈クレア〉を経営していたジェニーは(84年にベルギー初のコム デ ギャルソンのブティックをオープンしたのも彼女だ)、ベルギーのテキスタイル業界が主催する「ゴールデン・スピンドル・アワード」の審査員を務めていて、そこで出場するマルタンと出会った。その才能に惚れ込んだ彼女は、1988年にマルタンとともにブランドを立ち上げる。作中で回想されるように、ロゴのない白いタグのアイデアは彼女から生まれたものであり(表面に仕付糸を残すアイデアはマルタン)、当時のファッション界には存在しなかった“強くリアルな女性像”を打ち出したのも、彼女の考えに担うところが多かった。
テーラー用のリネンのドレスダミーを服として提案した1997年春夏コレクション。
2002年にレンツォ・ロッソのグループにメゾン マルタン マルジェラが買収されると、ジェニーはブランドを去り、一人残されたマルタンもまたその7年後にファッション界から姿を消す。映画の終盤では「なぜ、マルタンは突然ファッション界を引退したのか?」という問いが当時のスタッフに投げかけられる。その答えは、クリエイティブの世界に生きる人間ならば誰もが理解できるものだろう。ジェニー・メイレンスは2017年にこの世を去り、マルタン・マルジェラは変わらずにファッション界とは距離を置いている。「We Margiela」はクリエイティブであることの情熱と苦悩を描いた作品でもある。
映画『We Margiela マルジェラと私たち』予告編

『We Margiela マルジェラと私たち』

2月8日から〈Bunkamuraル・シネマ〉ほか全国順次公開。
監督:メンナ・ラウラ・メイール、出演:ジェニー・メイレンス(声のみ出演)、ディアナ・フェレッティ・ヴェローニ(ミス・ディアナ)ほか。103分。配給:エスパース・サロウ。(C)2017 mint film office / AVROTROS

石田潤

いしだ じゅん  『流行通信』、『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。