川久保玲が初めて衣装デザインを手掛けたオペラ|石田潤のIn The Mode | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

川久保玲が初めて衣装デザインを手掛けたオペラ|石田潤のIn The Mode

上演前から注目を集めていたウィーン国立歌劇場の新作オペラ『オルランド』が、ついにベールを脱いだ。女性クリエイターにより製作された異例の作品の衣装デザインを手掛けたのは、コム・デ・ギャルソンの川久保玲。果たしてどのようなクリエイションが展開されたのか?

地球の未来を憂える子供たち。劇中ではトランプ大統領を思わせる自国第一主義についても触れられる。 ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn
川久保は2019年5月に作曲を手かげたオルガ・ノイヴォルトのオファーを受け、今回のオペラの衣装を手がけることとなった。ニューヨークタイムズ紙のインタビューに、川久保は引き受けた理由として、オルガを含めプロダクションの女性たちが強くクリエイティブであったこと、バージニア・ウルフとブルームズベリーサークル、とりわけ時間とジェンダーを飛び越えるというオルランドのコンセプトに以前から興味を抱いていたことなどを挙げている。メインキャストの衣装36体、更に全キャストの衣装106体という膨大な体数をゼロからデザインする時間はないと考えた川久保は、オペラに先立つパリ・コレクションのショーで発表したものを用いるという条件付きで参加した。実際に、2019年秋冬のコム・デ・ギャルソンはメンズ、レディースともに、オルランドをテーマとし、オペラで完結する3部作として発表された。

川久保がコレクションのテーマを明らかにすることは異例であり、オペラへの強い意気込みが感じられた。そしてオペラに登場した衣装は、こうしたコム・デ・ギャルソンの世界観を引き継ぎながらも、『オルランド』のためだけに作られたもののように見えた。オルランドが着用した複数の袖が配されたジャケット、エリザベス女王の本来中に隠れて見えないファーチンゲールが露出したスカート、複数のリボンがついたフェミニンなロシア皇女のドレス……。全ての服が登場人物のキャラクターを表し、強いクリエイションを貫くことで、奇想天外にも思える物語世界に逆にリアリティをもたらした。
少年時代のオルランドと彼を寵愛したエリザベス1世。ヘアメイクはコム・デ・ギャルソンのショーでお馴染みのジュリアン・ディスが手がけた。 ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn
第1部で登場するロシアの皇女サーシャはリボンを全身にあしらったフェミニンな衣装。 ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn
オルランドと夫となるシェルマディン(右)。シェルマディンの風貌は男性時代のオルランドを思わせる。 ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn
オルランドの1960年代のガールフレンドはパンキッシュなタータンチェックのスーツ。 ©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn
川久保はオペラの衣装をデザインするにあたり、次のような公式コメントを発表している。「ウイーンオペラ座が設立150年に当たる年に、初めて女性コンポーザーを起用という大きな変化の時に、衣裳担当をさせていただいたことは大変誇りに思います。このオペラが新しいオペラの世界をリードするのではないかと思います」。既成概念に挑戦し、常に新しく、強いクリエイションに挑み続けてきた川久保玲。その揺るぎない姿勢は、オペラという新天地でも貫かれた。
©Wiener Staatsoper / Michael Pöhn

『オルランド』

2019年12月8日〜20日、ウィーン国立歌劇場にて全5公演。
作曲:オルガ・ノイヴィルト、演出:ポリー・グラハム、脚本:キャサリン・フィルー、オルガ・ノイベルト、指揮:マティアス・ピンチャー、衣装:コム デ ギャルソン。出演:ケイト・リンゼー、フィオナ・ショウ、エリック・ジュレナス、コンスタンス・ハウマン、レイ・メルローズ、ヴィヴィアン・ボンド、アグネタ・アイヒェンホルツほか。

石田潤

いしだ じゅん  『流行通信』、『ヴォーグ・ジャパン』を経てフリーランスに。ファッションを中心にアート、建築の記事を編集、執筆。編集した書籍に『sacai A to Z』(rizzoli社)、レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真集『メタボリズム・トリップ』(平凡社)など。

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