「インゲヤード・ローマン」展、簡潔な器ににじむ感性|土田貴宏の東京デザインジャーナル | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

「インゲヤード・ローマン」展、簡潔な器ににじむ感性|土田貴宏の東京デザインジャーナル

スウェーデンで1960年代から活動し、ガラスや陶磁器のデザインを多く手がけるインゲヤード・ローマンは、現在もその第一線にいる。〈東京国立近代美術館工芸館〉で始まった個展の会場で、来日した彼女にインタビューした。

1960年代後半から陶芸家として、またガラス器のデザイナーとして活動しはじめたローマン。その大きな転機になったのは1999年に〈オレフォス〉のデザイナーに就いたことだろう。このスウェーデンを代表するガラスブランドで、彼女の創造性は大きな注目を集めた。

「2週間に1度はオレフォスの工房を訪れ、あらゆる工程を見て知識を共有しました」とローマン。たとえば《ポンド》は、1950年代から〈オレフォス〉で多用された、型に流し込んだ液体のガラスを遠心力で成形する手法を甦らせた。また《スノーペインティング》《カラカラ》《ボンボン》といった、白の濃淡でパターンを施したシリーズも代表作だ。こうした器には自然からのインスピレーションが生かされている。
2002年に〈オレフォス〉から発表した《ポンド》は、遠心成形という独特の技法で作られている。重ねた姿は波紋のよう。
〈オレフォス〉の《スノーペインティング》《カラカラ》《ボンボン》は、濃淡のパターンを生かしている。
2002年に〈オレフォス〉から発表した《ポンド》は、遠心成形という独特の技法で作られている。重ねた姿は波紋のよう。
〈オレフォス〉の《スノーペインティング》《カラカラ》《ボンボン》は、濃淡のパターンを生かしている。
その後、〈オレフォス〉を離れたローマンは、活動の幅を豊かに広げていった。建築家のイェルト・ウィンゴードとの協働で空間のデザインにかかわる一方、〈イケア〉のような巨大企業とのプロジェクトも行っている。また〈木村硝子店〉や〈2016/〉といった日本の作り手との仕事も目立つ。

「それを実験と呼ぶかどうかはともかく、自分がやったことのないことをしてみたい気持ちはいつもあります。ずっと触ってきたセラミックやガラスといった素材にも、私は好奇心を持ち続けていて、今までとは違う何かを見出したい。〈イケア〉との仕事では、それまで使うことのなかったバンブーなどの天然素材を使いました」
昨年、〈木村硝子店〉から発表されたシリーズは、匿名的なデザインを好むローマンならではの美しさがある。
世界各国の16組のデザイナーが参加した〈2016/〉のティーセット。有田の香蘭社が製造している。
〈イケア〉の《ヴィークティグト》コレクションでは、苦手だったという天然素材を用いたデザインに挑んだ。
昨年、〈木村硝子店〉から発表されたシリーズは、匿名的なデザインを好むローマンならではの美しさがある。
世界各国の16組のデザイナーが参加した〈2016/〉のティーセット。有田の香蘭社が製造している。
〈イケア〉の《ヴィークティグト》コレクションでは、苦手だったという天然素材を用いたデザインに挑んだ。
〈木村硝子店〉とのプロジェクトでは、ハンガリーにある工場を訪れて、その技術の高さから発想を膨らませた。あくまでデザイナーの視点から〈木村硝子店〉の既存の製品の方向性やニーズをふまえ、それらに調和するものを考えたという。また〈2016/〉は、陶土、釉薬、絵付けのすべてが優れた有田のメーカーとコラボレーションする上で、あえてフォルムを際立たせるために絵付けを施さないことを決断した。自由度の高い仕事であっても、アーティストではなくデザイナーとしてもの作りに取り組んでいることを、彼女は強調する。誰がデザインしているかが、ものから伝わる必要はない、と。しかし、その匿名的なデザインにもローマンらしさは確かに宿っている。

「私が〈イケア〉で手がけたものを見た知人に、『あれはあなたのデザインでしょ』と言われたことがあります。どんなにシンプルで機能的な器でも、わかる人にはわかってしまう。デザイナーはオーケストラの指揮者のようなもの。同じ譜面を見ながら演奏しても、指揮者ごとの個性は自然に表現されるのです。それを否定するつもりはありません」