土田貴宏の東京デザインジャーナル|パトリシア・ウルキオラが表現する〈カッシーナ〉の新時代。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

土田貴宏の東京デザインジャーナル|パトリシア・ウルキオラが表現する〈カッシーナ〉の新時代。

90周年を迎えた今年、アートディレクターのパトリシア・ウルキオラの手によってさまざまに新機軸を打ち出している〈カッシーナ〉。リニューアルしたカッシーナ・イクスシー青山本店でも、その世界観の一端に触れることができる。

昨年11月にマドリッドでオープンしたカッシーナの直営店。
「インストア・フィロソフィー3」のインスピレーションの源になったのは、これまで〈カッシーナ〉が用いてきた多様な色と素材のバリエーションだ。たとえばフランスの建築家で、家具の代表作《LC》シリーズをカッシーナが正式復刻しているル・コルビュジエは、独自の豊富なカラーパレットを残していた。

「ほかにもヘリット・トーマス・リートフェルト、ヴィコ・マジストレッティ、マリオ・ベリーニはじめ、〈カッシーナ〉とかかわりのある偉大なデザイナーたちはそれぞれに個性的な色彩を用いていました。〈カッシーナ〉が権利を取得した〈シモン・ガヴィーナ〉の色使いもすばらしいものです。私はそのすべてを検証して〈カッシーナ〉の空間や製品にふさわしい、新しいアイデンティティーを表現するカラーパレットを作りました」
immケルン国際家具見本市より。多様な色や素材は、ブランドの歴史のリサーチから発想された。
素材についても、ウルキオラは同様にリサーチを進めてきた。木、モルタル、ポリカーボネート、アルマイト加工した金属など、多様な素材に注目しているという。

「コンクリートの建材をむき出しにするなど、素材をそのまま使いながら、洗練された空間に仕上げることを意図しています。建築的なコンセプトに基いて多様な色彩や素材を構成することで、カッシーナらしい上品さを作り出すのが、私が考える新しい空間のルール。ニュートラルな空間を目指す近年のインテリアとは、はっきりと異なるものです」
immケルン国際家具見本市より。奥の半透明の壁はポリカーボネートでできている。
特定の色や素材に固執せず、あえて多様なものをクロスオーバーさせることで、ブランドの個性を確立する。これはハードルの高いブランディングに違いないが、いままでさまざまな実験を重ね、経験を積んできたウルキオラならではの挑戦でもある。先日、全面リニューアルを果たしたカッシーナ・イクスシー青山本店も、壁面の一部などに「インストア・フィロソフィー3」を応用。ウルキオラのヴィジョンを感じさせる、新たな仕様で彩られた家具が、そのエリアにスタイリングされている。
リニューアルしたカッシーナ・イクスシー青山本店。カッシーナ製品を取り揃えた2階では、家具のテイストや壁面の色使いなど、いたるところにウルキオラのカラーを感じることができる。
家具ブランドは、1つのアイテムを数年から数十年にわたって販売し続ける。半年ごとに商品が入れ替わるファッションと異なり、アートディレクターは長い時間軸の中でブランドをとらえ、着実に進歩させていく必要がある。ウルキオラはトレンドに敏感なデザイナーでもあるが、〈カッシーナ〉においてはブランドを作ってきた要素を徹底的に考察して原点に据えた。それがリッチな色と素材感にあふれ、さまざまな時代や文化の多層性も感じさせるところが興味深い。ウルキオラの個性と、カッシーナの歴史が、その世界観の中できれいにフュージョンしている。
カッシーナ・イクスシー青山本店。カッシーナの既存の製品も、ウルキオラのディレクションのもとに新しい仕様のモデルが増えている。

カッシーナ・イクスシー青山本店

東京都港区南青山2-12-14 ユニマット青山ビル1~3F
TEL 03 5474 9001 11時〜19時。水曜休。公式サイト

土田貴宏

つちだたかひろ  デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。