土田貴宏の東京デザインジャーナル|ポエジーの核に哲学がある、澄敬一のオブジェ | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

土田貴宏の東京デザインジャーナル|ポエジーの核に哲学がある、澄敬一のオブジェ

アンティークの古材などを素材に独創的なオブジェを作りつづける澄敬一の個展が開催中だ。ユーモラスで愛らしく見える作品のひとつひとつに、デザインの原点に根ざした深みがある。

手作りならではの趣、詩情豊かなコンセプト、そして独特のユーモアのセンス。一連の作品はそんな共通性をもつが、一方で澄は自分の感覚のベースにバウハウス的なモダンデザインがあるのだと、以前のインタビューで話している。それは機能、素材、構造、審美性を見据えて的確に調和させることと言い換えられるだろう。彼は、しばしばアンティークの価値とされる経年変化した素材の表面をあえて磨き、無垢な状態に戻してパーツとして用いる。本来の素材感を蘇らせて、機能するものとしての魅力を引き出していくのだ。
2009年制作の《電気羊》は、タンスの引き出しでボディーを制作。渦巻きの機構は、昭和中期にあった日本催眠研究会による催眠導入機のもの。
またモダンアートや近代建築についての豊富な知識も、作品の至るところに生かされている。《電気羊》と名付けられたオブジェは、羊の前半身と後半身で構成されたもの。後半身にあるスイッチを入れると、渦巻きが回転して人を眠りに誘う。また前半身にはスピーカーが内蔵されていて、スイッチを入れると羊の鳴き声で目を覚まさせる。《電気羊》という名前は、フィリップ・K・ディックの小説からの引用。そしてフォルムが羊を模しているのは、建築家ロバート・ヴェンチューリが著書『ラスベガス』でホットドッグなどを模した商業建築を賞賛したことをふまえているという。
展示に合わせ、購入可能なオブジェも用意されている。左から/1940年代に轆轤引きのパーツで製造されたキリンの玩具の再制作品12,000円。DOのオリジナルの書見台16,000円。1970年代に図工の授業で使われたトルソーの芯材をセラミックで再制作したオブジェ9,000円。
澄の作風は、デザインの文脈ではあまり取り上げられない領域にあるが、その制作のプロセスや背景にある考え方はデザインと密接に結びついている。商業主義から離れたところで素材や機能と静かに向き合う姿は、ある種のユートピアを思わせるものだ。幅広いジャンルのデザイナーやクリエイターにとって、彼の活動はさまざまなインスピレーションをもたらすに違いない。
新たに発売された澄敬一の作品集『push me pull you』。企画、構成、アートディレクションを山口信博が手がけている。ドイツ装、日英対訳。4,800円。

push me pull you 澄敬一の仕事

〈CLASKA Gallery & Shop "DO" 本店〉

東京都目黒区中央町1-3-18
CLASKA 2F。11時〜19時 TEL 03 3719 8124。〜3月20日。公式サイト

土田貴宏

つちだたかひろ  デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。