土田貴宏の東京デザインジャーナル|深澤直人が引いた、工芸とデザインの“境界線” | ページ 4 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

土田貴宏の東京デザインジャーナル|深澤直人が引いた、工芸とデザインの“境界線”

デザイナーの深澤直人がディレクションし、〈金沢21世紀美術館〉で開催されている『工芸とデザインの境目』展。あえて1本の線を展示室に設定することで、工芸とデザインの関係を多方面からとらえている。

「チンクエチェント」と呼ばれる1957年のフィアット500と、2016年のフィアット500Cツインエア ラウンジ。
左は1957年に登場した《フィアット 500》、右はそのイメージを引き継いだ現行モデルの《フィアット 500C》。500は発表当時は最先端のコンパクトカーだったに違いないが、現在においてはあらゆる部分が工芸的に見える。深澤は、デザイナーのダンテ・ジアコーサがクレイモデルを撫でるように削って完成したオリジナルの500のフォルムが、現行の500の中に抽象化されて生きていると考え、この抽象化をデザインであると言う。また内装も、現在のインダストリアルデザイナーには決して作れないものだと指摘する。
オリジナルの《フィアット500》の車内。テクノロジーをきわめた現代のクルマとは印象も製法も大きく異なる。
今回の展覧会で深澤直人が選んだ工芸は、美術品や装飾品としての工芸は含まれず、ほぼ実用本位のものに限定されている。一方、デザインについては20世紀半ばに生まれたものや現代のものなど、名作と呼ばれるプロダクトを多く含みながら、深澤らしい視点が発揮された。アップルのコンピュータ、ブラウンのオーディオ、深澤自身が手がけたマルニ木工の椅子《HIROSHIMA》などが境界線上にあることからも、デザインに偏っているようにも見える。しかし工芸とデザインを客観的に分けるのが不可能である以上、主観を生かしたアプローチには十分に意味がある。
左はトーネットの曲げ木椅子、中央は深澤直人の《HIROSHIMA》、右はジャスパー・モリソンの新作椅子《ALL PLASTIC CHAIR》。