都市の3Dデータ化で何が起こるのか? 齋藤精一にインタビュー|土田貴宏の東京デザインジャーナル | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

都市の3Dデータ化で何が起こるのか? 齋藤精一にインタビュー|土田貴宏の東京デザインジャーナル

国土交通省が主導するデジタルツインのプロジェクト〈PLATEAU〉が公開された。そのディレクションを手がけるパノラマティクスの齋藤精一に、都市を3Dモデル化することの意義や、そこから広がる建築のビジョンを聞いた。

三菱総合研究所が福島県郡山市の洪水被害を想定した「垂直避難可能な建築物の可視化等を踏まえた防災計画検討」。
森ビルによる「屋内外をシームレスに繋ぐ避難訓練シミュレーション」では、コロナ禍における避難訓練を、屋内と周辺地域のデータを結びつけて検証した。
「〈PLATEAU〉の使い道としてまず考えられるのは、安全安心、便利快適をもたらすもの。これはすでにいろいろな方面から力が結集し、実装が始まっています。また個人的に期待したいのがコンテンツ産業やサービス産業での活用です。映像、ゲーム、僕らもやっているステージエンタテインメントのようなジャンルでは、都市のデータをゼロから作らずに済むのは大きい。不動産業や飲食業も、建物の高さや景観のデータを取り入れることで、新しい価値を発信できます。ここから次のビジネスが生まれ、共有されることで、〈PLATEAU〉がプラットフォームとして自走していくのが理想です」
株式会社MESONと博報堂DYホールディングスによる「都市空間におけるAR/VRでのサイバー・フィジカル横断コミュニケーション」。渋谷神南エリアで現実世界とサイバー空間を融合した。
A.L.I. Technologiesによる「物流ドローンのフライトシミュレーション」は、高層ビルが立ち並ぶ都市空間でドローンが荷物を運ぶシミュレーションを行う。
三越伊勢丹ホールディングスによる「バーチャル都市空間におけるまちあるき・購買体験」。外出自粛が求められる中でバーチャルな都市空間での回遊体験を提供する。
バーチャル銀座をユーザー自身の3Dアバターが駆け回る、NTTドコモの「ゲーミフィケーションを通じた地域の魅力発信」。
建物の高層化や地下空間の利用がますます進んでいる現在。近い将来には、ドローンによる荷物輸送や空を飛ぶモビリティが実用化されると言われている。データを扱う技術の進歩を背景に、2次元だった地図が3次元化し、豊富なデータが付加されていくのは必然だろう。さらに齋藤が構想するのは〈PLATEAU〉をきっかけに都市の見方が変わり、その未来像を誰もが描ける状況ができあがることだ。

「日本の都市開発はマクロな視点が欠けていて、どの地域も変化に乏しい金太郎飴的な街並みになりがちです。東京のように複雑な都市であっても、全体を俯瞰して街ごとの役割を整理し、それに基づいて都市開発や街作りをするべきでしょう。そのためにデベロッパーが集まる場も作っていますが、〈PLATEAU〉を通じて街を作る人と使う人が同じ土俵に乗ることができる。都市への集中と分散が同時に起きている現在、さらにどんな都市を目指すべきかというシミュレーションがしやすくなるんです」
アジア航測、パナソニック、日立製作所による「都市計画基礎調査情報を活用した都市構造の可視化」。名古屋市の3Dデータを使い、土地や建物の1991年から2017年の変遷を可視化した。
公開されている〈PLATEAU〉のユースケースより、 三菱総合研究所とアジア航測による「都市空間に関する情報の集約による行政事務の効率化」。土地や建物のさまざまなデータを3Dの地図上に集約することで、開発の申請や許可の手続きを簡潔化しようという実証実験の画像。
日立製作所と日立情報通信エンジニアリングによる「レーザーセンサーによる高精度でリアルタイムな人流計測」。3D LiDARを使用して人の動きや滞留を把握し、都市のデータと統合している。
限られた土地をぎりぎりまで有効活用するのでなく、趣を重視した建物を増やすことで、都市の価値も建築の価値も高まっていく。それは「建築の再興」なのだと齋藤さんは考えている。都市を3Dデータ化すると、これまで以上に効率を重視したアプローチも考えられるが、〈PLATEAU〉が意図するのはそうではない豊かさだ。

「1950年代から2020年代まで東京の建物の推移を見ると、更地だったところにどんどん高い建物が増えていく。ではさらに空を目指すべきかというと、違うと思う。テクノロジーの発展は、大きなものを小さくして、それを結合し、さらに小さくしていくことを繰り返します。そう考えると東京のビルは一つひとつが大きすぎる。防災、景観、ウェルビーイングなど多様な価値を取り込んで、人間的感性を生かす建築を増やすほうがいい」
東京・銀座周辺の建物の用途別に色を塗り分けた状態。建物の色は、オレンジが商業施設、イエローがホテル、グリーンがマンションを示している。
「〈PLATEAU〉は、建築の周辺にいる人はもちろん、造形や映像などいろんな人に触れてほしい。そして結果として出来上がるものは、建築的であってほしいと思います。建築は誰かが作るものだけど、多くの人が使い、その景観が共有されるから意味がある。〈PLATEAU〉という名前はドゥールーズとガタリの『千のプラトー』から来ていて、それは精神の高台であり、多様な人がつながる場とされています。つまりネオ・パブリックでありメタ・パブリック。世に放たれたからには、いろんな人が触れて、いろんな楽しみ方ができるものに成長してほしいと思います」

建築家のバックグラウンドをもつ齋藤は、以前から「開かれた建築」を志向してきたという。そして現実とデジタルを超えてアクセスを可能にした〈PLATEAU〉は、まさに「開かれ」ている。デジタルツインはさまざまな可能性を秘めているが、こうしたプロジェクトでは人々が主体的に街や建築のあり方を考えていくことになる。SNSが情報の発信を開放し、YouTubeが映像の発信を開放したように、やがて〈PLATEAU〉が都市計画を人々に開放するかもしれない。

齋藤精一

さいとうせいいち 株式会社アブストラクトエンジン 代表取締役、パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰。1975年神奈川県生まれ。コロンビア大学建築学科(MSAAD)卒業。2015年頃から経産省の〈3D City Experience Lab.〉などを通じて地図の3D化について考えてきたという。
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