20世紀構成主義のポスター展をアール・デコの館で鑑賞する|青野尚子の今週末見るべきアート | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

20世紀構成主義のポスター展をアール・デコの館で鑑賞する|青野尚子の今週末見るべきアート

アール・デコの装飾が美しい〈東京都庭園美術館〉で”構成主義”にスポットをあてたポスターの展覧会が開かれています。「ビジュアルコミュニケーションは可能か?」とのサブタイトルにさまざまなことが読み取れる企画です。

オイゲン・エーマン《ドイツ・グラフィック展/チューリッヒ・ヴォルフスベルク美術サロン》(1921年)。モノクロのリトグラフ(銅版画)によって人物像やタイポグラフィを表現。同時代にミュシャが多色刷りリトグラフで華やかなポスターを作っていたのに比べると、ストイックさが際立つ。
戦前のポスターは写真製版技術が未発達だったため、印刷された写真は粗く、モノクロのものが多い。が、印刷技術が向上した戦後になっても「インターナショナル・スタイル」のデザイナーはほぼ文字のみのストイックな表現をめざした。写真などの具体的なイメージはほとんど登場せず、主に大小の文字で構成される。シンプルなのに心に刺さる、タイポグラフィの力を感じさせる。

テオ・バルマー《写真100年展/バーゼル工芸博物館》(1927年)。整然とした幾何学的形態のみで構成されている。
そのメッセージもイベントのタイトルと日時、場所のみを記したものが多く、「世紀の大発見!!」といった煽り文句は見当たらない。抑制の効いたデザインは、戦前のメッセージ性の強いポスターが政治的プロパガンダに利用されたことへの反省から生まれている。
エミール・ルーダー《 マックス・ベックマン展/クンストハレ・バーゼル》(1956年)。タイポグラフィのみで構成されたポスター。展覧会名、館名、日時しか書かれていない。(c) Emil Ruder
展覧会は三部構成。1章では戦後、主にスイスのインターナショナル・スタイルのポスターが並ぶ。2章では時間をさかのぼり、1章のインターナショナル・スタイルを生み出した第二次世界大戦前のポスターを紹介する。リシツキー、シュテンベルク兄弟らロシア構成主義のポスターは、写真を大胆にコラージュした画面が特徴だ。バウハウスで学んだテオ・バルマーは幾何学的形態と正三角形に配置されたテキストで抽象度が高くかつインパクトあるポスターを作った。
ウォルフガング・ワインガルト《スイス・ポスター 1900–1983/ビルクホイザー出版社》 (1983年)。バーゼル工芸学校で教鞭を執ったデザイナー。文字の間をランダムにあけるなどの実験的な作風は、「スイス・パンク・タイポグラフィ」と呼ばれるムーブメントを生んだ。(c)Wolfgang Weingart
3章では1970年代以降の作品が並ぶ。印刷のための網点がついた製版フィルムを素材とするウォルフガング・ワインガルトなど、アヴァンギャルドな表現の実験が展開される。1984年にパーソナル・コンピュータ・Macintoshが登場すると、それまで手作業に頼っていたコラージュなどを画面上で自由に行えるようになる。タイポグラフィの選択の幅も広がった。デザイナーとしての訓練を受けた人だけでなく、より多くの人がデザインに関わるようになり、デザインの民主化が進む。こうして表現の領域が一気に拡大し、大量のイメージが流通することになった。
ジャン゠ブノワ・レヴィ《マルクトブラット/無料広告新聞》(1989年)。ワインガルトに学んだデザイナー。グラフィックデザインの本質はポスターにあるとして、一貫してポスターの制作を続ける。 (c)Jean-Benoit Levy ( AGI / AIGA ), Studio A N D ( www.and.ch ), Photo : Alexandre Genoud
近年ではデジタル技術の発達により、アナログでのコミュニケーションよりもバーチャル(デジタル)でのコミュニケーションの比重が増えている。しかしリアルなものが持つインパクトは換えがたい。会場に並ぶポスターで、一枚の紙が伝えるものの強さを実地に感じることができる。

20世紀のポスター[図像と文字の風景] ――ビジュアルコミュニケーションは可能か?

〈東京都庭園美術館〉東京都港区白金台5-21-9。1月30日〜4月11日。10時〜18時。2月24日、3月10日・24日、4月5日休。一般1,100円。

青野尚子

あおのなおこ  ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に「新・美術空間散歩」(日東書院本社)。西山芳一写真集「Under Construction」(マガジンハウス)などの編集を担当。

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