古陶を思わせる、侘びた色と素朴なカタチ。タナカシゲオ陶展@木と根|輪湖雅江の器とごはん | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

古陶を思わせる、侘びた色と素朴なカタチ。タナカシゲオ陶展@木と根|輪湖雅江の器とごはん

器は料理を盛ってこそ! 人気作家の最新作を発表する個展に合わせて、作家本人にも料理をつくってもらっちゃおう……という無茶ぶり企画7回目。奈良・明日香村の古民家に暮らし、昔ながらの“紐づくり”と薪窯焼成で器をつくっている陶芸家、タナカシゲオさんを訪ねました。ふだんの何気ない料理も品よく見せる器は、12月15日から始まる京都〈木と根〉の個展にて!

明日香村にある〈のらのわ耕舎〉のひね鶏(卵をうまなくなった親鶏)で、たたきをつくるタナカさん。
台所もセルフビルドで制作した。カウンターは杉の一枚板。
できあがったごはんを敷地内にある離れに運ぶ。大きな窓の外には緑の木々。清流の音も聞こえてきて、なんだか桃源郷のよう。
こうしてできあがった料理が、皿や深鉢に次々と盛り付けられていく。その器を手に取ってみると、驚くほど軽い。鶏のたたきがたっぷりのったオンギの盤(皿)も軽々持てるし、まるいリム皿は見た目の印象よりも薄づくりで、手にした時の感触がすこぶる心地いい。
のらのわ鶏のたたき/ひと晩甘酒に漬けて柔らかくしたひね鶏を七輪で焼き、皮にこんがり焼き色をつける。細切りにしてオニオンスライスの上に並べたら、ニラの芽のオリーブオイル漬けをのせる。高知のゆずを使った自家製ポン酢で。
マコモダケのナムル/「マコモダケは近くの畑で採れたもの。生のままスライスしてゴマ油と塩でナムルにしたら、エグミも土くささもなくて意外とおいしかったんです」というタナカさんの言葉通り、シャクシャクした歯ごたえとゴマのいい香りに箸が止まらない!
レンコンボールと三つ葉の吸い物/昆布と鰹節でとった出汁を醤油と酒で味付け。レンコンボールは、すりおろしたレンコンに味噌を混ぜて素揚げしたもの。三つ葉がふわっと香り、目もお腹もじんわり満たされるお吸い物。高台がしっかりした堅手カップは、軽くて小ぶりで持ちやすく、口当たりも心地いい。
万願寺唐辛子のおかか和え/さっとあぶった万願寺唐辛子を、削りたての鰹節と醤油で和えたもの。ごはんがすすむ、懐かしい味わい。《オンギ面取鉢》の黒釉の深い色にツヤツヤの万願寺がよく映える。
それより何より、テーブルに並べた時の、たまらなくおいしそうな風景といったら! 料理にも器にもハデな色がほとんど無いのに、どうしてこんなにイキイキ見えるんだろう? 揚げたてサトイモのこんがり色や白和えの優しい色がパッと目にとびこんでくるいっぽうで、吸い物が入った堅手カップやツヤツヤ唐辛子を持った黒い鉢は、早く手にとってみたくなる。
柿とキク菜の白和え/冬の丹後野菜でつくった一品。柿の甘さとみずみずしい苦み、まろやかな食感がいっしょになって、ついついもう一口。水切りした木綿豆腐を裏漉ししてすり鉢で摺り、胡麻と白味噌とみりんで味付け。あらかじめ茹でて醤油で軽く下味を付けておいたキク菜、食べやすい大きさに切った柿と和える。
サトイモのから揚げ/サトイモは昆布出汁と醤油で炊いておく。片栗粉を全体にまぶしてキツネ色になるまでカラッと揚げる。外側はカラッとカリカリ、中はほっくりねっとり、味もほどよくしみている。少しかしこまった印象と親しみやすさを併せ持つタナカさんの堅手台皿に、ふだんのおかずをのせるとこんなに素敵。
右はシソノミを醤油に漬け込んだもの、左は出汁昆布を醤油で甘辛く煮たもの。中央のリム豆皿には自家製キュウリの糠漬けを。
「器をつくっている時に、どんな料理が合うか…というようなことは考えないですね。そこを気にしはじめてしまうと、決まりきった形になってしまうから。持った時の軽さや大きさには、“このくらいが使いやすいかな”というラインがありますが、できるだけ自由な発想でつくりたいんです」。発想の根底にあるのは、日々の生活や風景であり、昔から憧れ続けている古陶でもあり。

「〈東京国立博物館〉や大阪の〈東洋陶磁博物館〉など美術館の陶展も見に行きますし、骨董店ものぞきます。李朝などの古い器について言えば、韓国の博物館に並んでいる立派なものも美しいと思うけれど、日本の骨董店にあるような、つまり、日本の目利きが選んで残ってきたもののほうにいっそう親しみを感じます。日本の“ふるい”にかけられたものが好きなのかな。そうやって選ばれたものが持つ、においというか、佇まいのようなものを、自分の器づくりでも大切にしたいです」
「シマシマがコーちゃん、グレーがクロちゃん。どちらもたぶん12歳」タナカ家には、ふかふかな毛並みの人懐っこい兄弟(写真)と、人見知りな妹キリンの3匹が暮らしている。
コーヒーは生豆で買って七輪で焙煎。熊本の利平栗を使った渋皮煮は、分蜜糖とラム酒で炊いたもの。七輪の火でじっくり火を通した栗は、コクがあって濃密なのに上品な甘さ。すっきりした味わいのコーヒーによく合う。器はどちらもタナカさんの作。
母屋にあるギャラリースペース。
紐づくりやタタラ(板状にした粘土を型にあて、叩いて成形する方法)でつくることが多いタナカさんの器は、「きっちり整い過ぎていないフォルム」に魅力があるし、えもいわれぬ品がある。日常の料理をやわらかく受け止める伸びやかな力があり、手にも空間にもなじむ親しさがある。
左は「黒伊羅保」の鉢。縁の部分など、伊羅保釉が焦げて黒っぽく出たところが面白い。右は高台の形も美しい堅手のカップ。
染付に使われる青い顔料・呉須も自作する。「天然の青粘土から出てきたものを乳鉢ですりつぶし、試しに絵を描いて焼いてみたところ、すごく綺麗な青色が出たんです」。蜂の絵のリム皿などは今回の個展にも並ぶ予定。
毎日のように使う豆皿や小鉢も、“耳”があったり高台がついていたりすると、少しだけかしこまった印象。中央のリム豆皿はふつうの小皿より風情があり、ひとつふたつ持っているとテーブルの風景が豊かになる。
緑豊かな景色を毎日眺め、数百年前の生活と繋がるような空間に住み、日々の食事はもちろん建物や生活道具も自分でつくったり直したりしながら暮らしている。そんなタナカさんの器が並ぶ個展は、作家ものの器や手仕事の道具を扱う店、京都の〈木と根〉で12月15日から。

いつもの何気ない料理をぐっとおいしそうに見せるオンギの皿、見慣れた食卓に品のいい風情をもたらす堅手や白瓷、いちど使ったらきっと手放せなくなる黒伊羅保の鉢など、1点ずつじっくり見て手にとって選んでほしい!
セルフビルドで建てた工房の中。厚さ50cmの壁の内側は土を塗って仕上げた。左に見える窓枠は韓国の古いもの。
工房で乾燥させている途中のオンギのリム皿。フレンチレストランでも使われているそう。

『タナカシゲオ陶展』

〈木と根〉
京都市下京区燈籠町589-1 TEL 075 352 2428。12月15日~12月19日。11時~17時。個展期間中は無休。

たなか・しげお  

1963年京都生まれ。 ほぼ独学で陶芸を学んだ後、李朝や桃山茶陶などの古陶磁を手本に作陶活動を始める。40歳の時に京都〈川口美術〉で初個展。2007年、奈良県の明日香村の集落に移住。 2011年に穴窯、2016年に倒炎式薪窯を築窯。作品は、今回個展を開く京都〈木と根〉のほか、蔵前〈水犀〉、京都〈うつわと古物 幹〉、大阪〈HS〉や〈暮らし用品〉、兵庫〈アーキペラゴ〉などで取り扱う。また南青山〈コズミックワンダー〉などのアパレルショップ、入谷の中国茶専門店〈リーフマニア〉、〈アマン東京〉内ギャラリーショップなどでも一部扱っている。

Masae Wako

わこまさえ  編集者・ライター。インテリアと手仕事と建築と日本美術にまつわる雑誌の仕事が中心。カーサブルータス本誌では〈かしゆか商店〉番頭。

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