火星住宅コンペの優勝はアイスハウス! | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

火星住宅コンペの優勝はアイスハウス!

氷で建てた住居で、火星に暮らす。NASAの心を日本人建築家たちチームの発想が、射止めました。

宇宙の設計にあたっては「我々が日々経験する地球上でのさまざまな制度やしがらみから自由になるという意味では、精神的な窓を開けてくれる思いがします」と曽野。
NASAの火星居住コンペで、NYの建築家、曽野正之・祐子らのチームが1位に輝いた! と内外のメディアが報じたのは、9月末のこと。超大御所のノーマン・フォスター建築事務所を2位に抑えての勝利は、彼らも当初、耳を疑ったとか。

そもそもこのコンペはNASAが宇宙開発の技術を広く公募する試みのひとつ。2030年代、宇宙飛行士4名を火星に1年間滞在させて探索を行う計画に向け、安全で快適に暮らせる居住施設のデザインを募った企画だ。

材料は現地調達で、3Dプリントを用いるのも条件。ほかの応募作が火星の土壌を使った基地を目指したのに対し、曽野チーム8名は火星の「水」に着眼した。ロボット2台が地底の氷を採掘しては、溶かし、強度を高める添加剤を加えて再び凍結。3Dプリンターで造形し、氷の壁をつくるという画期的なアイデアだ。

火星で氷の家をつくり、着陸船の内部を居住空間として人が住む。酸素・食料をつくるために緑化を図る。その植物を育てるのも、もちろん火星の地下水だ。

まるでSF掌編小説を思わせるロマンチックな発想を、実現に近づけたのも、丹念なリサーチと研究あってこそ。曽野の建築事務所〈Clouds AO〉は、4年前から空き時間を利用しては宇宙・航空建築のリサーチや記事執筆を行ってきた。彼ら3名と協働して取り組んだのが、コロンビア大学のマイケル・モリス教授率いる宇宙建築のチーム〈SEArch〉の5名だ。8人が一丸となって、「マーズ・アイスハウス」を生み出した。

氷は放射線を遮蔽する性質があり、しかも光を透過する。火星の平均外気温はマイナス40℃ということからも、氷は大変理にかなった素材といえる。でも「前例のない斬新で実験的な提案であったため、1位はないだろうと思っていました」と曽野。優勝に選んだNASAの柔軟性と、ほかと違う独創性を評価する姿勢に、アメリカの良い部分を見た気がしたという。実用までには技術審査など過程はまだまだあるが、火星への夢をぐっと身近にしてくれた「氷の家」。既成概念にとらわれないおおらかな発想こそが、未来を切り拓く、と実感させる。

ICE HOUSE

氷の家の断面図。地下水で緑化も。
外壁は氷壁を二重に。内側には縞状に刻まれたレールに沿って3Dプリンターのロボットが移動する。氷は放射線を遮って人体を防護するだけではなく、透光性があるので夜は内側から闇を照らす。火星の灯台、人類にとっての記念碑だ。公式サイト

CLOUDS AO & SEARCH TEAM

(左から)MASAYUKI SONO、YUKO SONO、OSTAP RUDAKEVYCH、MICHAEL MORRIS
氷の家を生んだチームです!
マイケル・モリス教授は〈SEArch〉代表。曽野正之&祐子夫妻とオスタップ・ルダケヴィッチの〈Clouds AO〉は、同時多発テロ犠牲者のための慰霊碑や、有志の運動により存続の危機を免れたセントマークス書店の新デザイン等、人の心に何かを刻み込む作品で知られる。