『カイ・フランク』展、彼がデザインの良心である理由|土田貴宏の東京デザインジャーナル
葉山にある〈神奈川県立近代美術館〉で始まったカイ・フランクの回顧展は、20世紀のフィンランドを代表するガラスや陶磁器のデザイナーとして著名な彼の作風を、幾何学形態をテーマに読み解こうというものだ。「フィンランド・デザインの良心」と広く評される彼の本質を、独自の切り口で伝えている。
20世紀初頭にモダニズムに則ったデザインが広まって以来、無駄な装飾がなくシンプルさを重視した製品は世界各国で見られるようになった。その過程で、幾何学形態がもつ意味が探求されたケースは珍しくない。しかしカイ・フランクの場合、その探求の姿勢がストイックで一貫していたことが、この展覧会から伝わってくる。たとえばディーター・ラムスでも、ジャスパー・モリソンでも、そのデザイナーが好む曲線がどこかに潜んでいるが、カイ・フランクの作風にはそれが見えてこない。そんな無私の境地を感じさせるフォルムが、ものとしての魅力をつくり出している。
量産品をデザインする限り、個性の表現にきわめて慎重だったことは、彼のポリシーとしてよく知られている。それは1960年代、彼がアートディレクターを務めたガラスブランド〈ヌータヤルヴィ〉で、製品にデザイナー名を刻印しないことを主張したエピソードにも表れている。ものづくりとはデザイナー個人でなくチームで行うものであり、製品を使う場面においても誰がデザインしたかは関係ないから、というのが大きな理由だったらしい。チームという点では、カイ・フランクは特に職人を重視していたといい、工房での作業を楽しんだり、彼らの誕生日にビールを贈ったりと、その人間関係を大切にしていた様子が伝えられている。