ダイバーズウォッチの原点として存在する
ブランパンの
《フィフティ ファゾムス》。
長い歴史が裏付けする傑作の魅力を紐解きます。
photo_Masahiro Okamura text_Shigeo Kanno cooperated with Paola Lenti
現存する時計メゾンとして世界最古の歴史を持つ〈ブランパン〉。その創業は1735年まで遡る。日本では、徳川家八代将軍徳川吉宗の江戸時代(享保20年)の頃である。
スイスのジュウ渓谷の小さな村ヴィルレに生まれ育った創業者のジャン=ジャック・ブランパンは、時計職人として村民名簿に登録され、その後およそ200年にわたり一族によって時計作りのすべてを代々継承してきた。1815年には、孫であるフレデリック=ルイ・ブランパンがヴィルレのアトリエを近代化。時計の脱進機(機械式時計の速度を一定に保つための部品)を新たに設計し超薄型構造を開発した。「革新は我々の伝統」という言葉と共に機械式時計にこだわりながら、時代ごとに時計製造の限界を超越し続けてきた〈ブランパン〉の進化の歴史は、毎年開発される新作によっても証明済みだ。
《フィフティ ファゾムス》、《ヴィルレ》、《エアコマンド》、《レディバード》というコレクションを柱に世界最古の時計メゾンとして君臨。なかでもメゾンの顔ともいえるのが、《フィフティ ファゾムス》コレクション。これは、1953年に当時のフランス軍の特殊潜水部隊のために製作された世界初のプロフェッショナルダイバーズウォッチで、現代のダイバーズウォッチの原型とも言われるモデルだ。回転ベゼル用ロック機構、密閉性を推持するダブルのOリング、Oリングの変形を防ぐ特殊なケースバック構造という3つの特許を取得している。
コレクション名の「フィフティ」は50、「ファゾムス」は、水深を意味し、1ファゾムス約1.83m。すなわち約91mの潜水が可能という意味であった。この水深は当時のダイバーが潜水可能な限界値とされていた。もちろん現在では、この深度をはるかに超える防水性能を備えているが、ロック機構付き回転ベゼルや高い視認性および耐磁性といったダイバーズウォッチの必須装備とスタイルをすでに確立していたといえる。また、スキューバダイビングの歴史にも多大な影響を与え、水中探検家たちの新しい世界を開いたといっても過言ではないだろう。
そんなダイバーズウォッチの先駆けである《フィフティ ファゾムス》は、初代モデルの登場から2003年、2007年、2024年のアップデートを経て、現在はより日常での使用にふさわしい《フィフティ ファゾムス バスカチーフ》の最新モデルがリリース。視認性を高めた針やムーンフェイズが加わるなど、初代のDNAを受け継ぎながらもモダンな仕上がりが魅力的。
世界最古であり最高峰のダイバーズウォッチ。本物志向の大人にはぴったりの傑作を、ぜひ試してみて欲しい。
前途の通り、《フィフティ ファゾムス》は、現代のダイバーズウォッチの原点と言われるコレクションだ。1950年代初めにフランス海軍の潜水士であるロベール・“ボブ” マリューとクロード・リフォ中尉が、水中作戦中に使える腕時計を求めたことから始まったダイバーズウォッチの制作は、元祖にふさわしい信頼性の高いダイバーズウォッチを完成させたことで完結した。
サファイアクリスタルの回転ベゼルやCal.1315を使用した72時間パワーリザーブ、そして、夜光塗料の付いた大きなインデックスなど、どこをとっても納得の仕上がりである。男心をくすぐるタフな中身とラグジュアリーな見た目を兼ね備えた《フィフティ ファゾムス》は、パーマネントなダイバーズウォッチとして今後も注目され続けるに違いない。
コレクション名に用いられたヴィルレは、〈ブランパン〉の創業地であるスイスのジュウ渓谷にある小さな村の名前。メゾンのなかでも最もクラシックなコレクションとして存在している。〈ブランパン〉のルーツと美意識、そして伝統を継承した数々のモデルは世界中に多くのファンを持つ。その大きな特徴は、〈ブランパン〉がこれまでに実現した最新の開発が組み込まれたムーブメントにある。アンダーラグコレクター、カレンダー操作保護機能、ムーンフェイズ機能、並外れたパワーリザーブなど時計の機能を高める様々な工夫が搭載されている。
常に時代に調和する《ヴィルレ》コレクションは、現代的な表情を併せ持ちながらも、常に再解釈の試みがなされている。このコレクションで表現されているのは、本物の時計の価値に対する〈ブランパン〉の揺るぎないこだわりだ。それはダブルステップベゼルやムーンフェイズ、日付表示のブルースティール製のサーペント針などに証明されている。現存する世界最古の時計メゾン〈ブランパン〉を代表する《ヴィルレ》。ぜひ一度実物を手に取ってみてほしい。
《エアコマンド》の登場は、アメリカ空軍が厳しい仕様を満たす高精度クロノグラフを探していた1950年代まで遡る。〈ブランパン〉はすでに、ダイバーズウォッチである《フィフティ ファゾムス》をアメリカ海軍に納入していた。その実績を踏まえた〈ブランパン〉は、《フィフティ ファゾムス》からインスピレーションを得てアメリカ空軍用のクロノグラフを開発した。〈ブランパン〉は、試作品として12本のみを制作し、代理店のアレン・V・トルネクを通じてアメリカ空軍のパイロットに提供された。のちにそれが《エアコマンド》の元となる。最終的に制作された《エアコマンド》クロノグラフの数は、ごくわずかだったという。
パイロットウォッチとして活躍する《エアコマンド》は、当時最も人気のあった軍用クロノグラフの先駆けモデルを踏襲している。なかでも特筆すべきは、フライバック クロノグラフ機能(クロノグラフ作動中にリセットボタンを押すことで計測がリセットされ0から再計測ができる)と、カウントダウンベゼルの2つの独立した計時機能。そして洗練されたデザインも魅力的。軍用時計として現代に甦った《エアコマンド》は、限定モデルやレギュラーモデルがラインナップしている。
実は〈ブランパン〉は、1930年に世界初の自動巻きレディスウォッチ《ロールス》を発表している。これにより、レディスウォッチのパイオニアとして名を馳せた〈ブランパン〉は、1956年に当時としては、最小の丸型ムーブメントを搭載した《レディバード》モデルを発表した。これにより、機械式時計にまつわるサヴォアフェール(匠の技)は、女性にも魅力的に理解されると確信した〈ブランパン〉は、常にレディスモデル専用のムーブメントの技術革新を行い、それまでメンズウォッチの専売特許だった複雑機構をレディスウォッチにも搭載することに成功した。
ちなみに、1933年には、時計製造会社初の女性社長としてベティ・フィスターが就任している。彼女の聡明さと先見の明によって、のちの《レディバード》を含めた、ジュエリーウォッチへの道が開いたことは言うまでもない。メンズウォッチをただ小さくしただけのレディスウォッチとは一線を画す《レディバード》コレクションにも注目だ。
開発から70年以上の歴史を持つダイバーズウォッチ《フィフティ ファゾムス》を有する〈ブランパン〉は、海洋保護活動にも積極的に取り組んでいる。2011年からは5年にわたりナショナル ジオグラフィック協会の「原始の海」プロジェクト支援を牽引し、2014年に「ブランパン オーシャン コミットメント(=BOC)」を提言した。近年は、2022年にPADIとの協力、バイオピクセルとの海洋保全、スルバーイ環境基金への支援と、BOC関連トピックが続いている。
オートオルロジュリー(高級時計製造)とオートキュイジーヌ(高級料理)の出会いは、すばらしいクラフトマンシップの追求、品質の重視、テロワールと伝統を尊重するという同様の観点を持つという〈ブランパン〉の視点から生まれた取り組み。卓越性、専門性、確かな感触、そして本物の情熱の追求も含まれるオートキュイジーヌの世界との共通の価値観を共有する〈ブランパン〉は、過去も現在も、獲得したミシュランの星の数が100を超えるような受賞歴のあるシェフたちと特別な絆を育んでいる。
2006年に創刊された「ル・ブラッシュ便り」は、〈ブランパン〉が独自に手掛けるブランドマガジン。時計業界のみならず、国際的なコンテストで、執筆部門の最優秀賞を含む多くの賞を受賞している。
現在では、下記の9つの言語で発行中だ。中国語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語、韓国語、ロシア語、スペイン語。
発行部数は約10万部、世界中の愛好家や購読者に無料で送られる。
左)
FIFTY FATHOMS AUTOMATIQUE
フィフティ ファゾムス オートマティック
3針デイト 主な仕様/径42.3mm、厚さ15.5mm、シリコン製ヒゲゼンマイ、120時間パワーリザーブ、逆回転防止サファイアベゼル、サファイアケースバック、ラバーストラップ。2,475,000円。
右)
FIFTY FATHOMS BATHYSCAPHE COMPLETE CALENDAR
フィフティ ファゾムス バチスカーフ コンプリートカレンダー
主な仕様/径43×43.6mm、厚さ14.1mm、コンプリートカレンダー、ムーンフェイズ、自動巻きキャリバー6654.P、72時間パワーリザーブ、ブラックセラミック製ケース、サファイアケースバック、セイルキャンバスストラップ。2,728,000円。