MY favorite MV ミュージックビデオの話|町田康 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

MY favorite MV ミュージックビデオの話|町田康

Casa BRUTUSが注目するアーティストの方たちに、最新の音楽から、クラシックな名曲、発掘系まで、古今東西のミュージックビデオを紹介してもらう新連載、〈MY favorite MV ミュージックビデオの話〉が始まります!

s-ken『ジャックナイフより尖ってる』(2017年)
__2017年に発表されたアルバムに収録された曲ですね。

そうです。昔と同じ、超一流のメンバーがかっこいい演奏をして、そこに70歳を超えて自然の熟成を経たボーカルがのる。歌詞にも哀しみがあるんですよね。これを聴きながら車を運転していて《Oh…ジャックナイフより〜尖ってる》と歌っているうちに、高速を降りなければいけないところを通り過ぎてしまったことが2回ありました。厚木を通り越してしまうぐらいにいい曲です。アルバムの最後に「鮮やかなフィナーレ」という曲があるんですが、これも泣けますよ。演奏とボーカルが作り出す絶妙さに加えて、人間が70歳になって歌うことで、初めて説得力を持つ言葉というものがある。この歳にならないとできない表現に触れて、僕も年寄りぶっていないで頑張ろうと思いました。今回紹介した3つの曲に共通するのは、歌っている人の言葉が、個人の肉体や人生を離れた普遍性を持っているというところ。こちらの聴覚に刺さってくる、意味と音の両方で心に響く言葉が好きです。

__町田さんご自身は、新バンド〈汝、我が民に非ズ〉でアルバム『つらい思いを抱きしめて』を発表されました。1曲目の「だから君は今日も神を見る」から、《パンも葱も恋も愛もない/なにもかもが夜の屑になる/夜の屑が意味と嘘になる/意味と嘘が飯の種になる》と、町田節と呼びたくなる日本語が繰り出されます。

僕は90年代半ばに小説に転じまして、そこから言葉の表現をずっとやってきました。最近はまた、日本語の歌の表現で自分にしかできないことがまだありそうだと思うようになったんです。だからそれを、小説を書くのに並行してしばらくは追求していきたい。歌詞については、ひとつひとつの意味や、表現の背景にどういう思いがあるかなど、詳細に説明しようと思えばできるんですが、それはいずれ別の機会があれば、ということにしましょう。

__ライブも精力的に続けられていますね。今後のご予定を教えてください。

今は平均すると月に1回かそれ以上ライブをやっています。演奏もまとまってきて、これからどんどん面白くなってくるところですね。2〜4月は東京の高円寺と町田、恵比寿、下北沢でもライブがあります。そして現在2枚目のアルバムを製作中です。ファーストアルバムはいろいろ試行錯誤しながら作っていきましたが、今はもうやり方も定まってきているのでそんなに時間はかからないはず。今年前半のうちには出したいと思っています。

『つらい思いを抱きしめて』

2016年頃から本格始動した〈汝、我が民に非ズ〉のファーストアルバム。町田康の参加作品としては9年ぶりの新作となった。2月8日(金)高円寺JIROKICHI、2月27日(水)まほろ座MACHIDA、3月1日(金)高円寺High、3月17日(日)恵比寿天窓.switch、4月18日(木)下北沢CLUB251などでライブを予定している。

まちだこう

1962年大阪府生まれ。81年INU『メシ喰うな!』でデビュー。その後、町田町蔵FROM至福団、町田町蔵+北澤組などバンドや個人名義で音楽活動を続ける。92年『供花』で詩人デビュー、96年『くっすん大黒』で小説家デビュー。芥川賞、萩原朔太郎賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞など受賞多数。