村上春樹さんの音のいい部屋を訪ねました。【外伝】レコードディガーとしての村上春樹。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

村上春樹さんの音のいい部屋を訪ねました。【外伝】レコードディガーとしての村上春樹。

Casa BRUTUS特別編集ムック「音のいい部屋。」で村上春樹さんの音のいい部屋にお邪魔しました。壁一面レコードに囲まれた自宅の書斎で、レコードへの思いをたっぷり語ってもらいましたが、紙幅の都合でどうしても掲載できななかったのがレコードディガーとしての村上さん。世界中のレコード屋をまわって、いまもレコードを掘り続けているコレクターとしてのエピソードを外伝として特別に公開します! 文/野村訓市

村上さんが初めて買ったLP。ジーン・ピットニーの『Many Sides Of Gene Pitney』。
「収集癖はありますね、昔から。レーザーディスクとか。映像はレーザーディスクでしかないものもあるんですよ、それが見たいんで今でも買っています。音も良いし。意外に本には収集癖がないんです。本は読むと、けっこうすぐに処分してしまう。初版本とかそういうものにも興味ないんです。昔だったら仕事で使うこともあるし、ということでとっておきましたが、いまはアマゾンなんかがあるので必要だったらまたすぐに買えますから。けれど、レコードに関しては違う。音楽はYouTubeでも聴けるし、CDでもだいたい手に入るんだけど、できるだけレコードで入手するようにしています。そして古い音源はちゃんとオリジナル版を買おうとしています。これほどの収集癖があるのはレコードだけですね」

レコードを聴く人、集める人は世界中で増えている。音源のフォーマットとして、毎年売上が右肩上がりなのはレコードだけ。大人買いだったり、若者の音楽としてだけではなくプロダクトとしてのレコードへの興味、理由は様々だ。重くかさばり、引っ越し時の頭痛の種となるレコードが人気なのは嬉しいこと。特に海外旅行者が日本をレコード天国として、いい中古レコードを買い漁り、海外に流失していく現状にコレクターとしてはどんな気持ちなのだろうか?

「アメリカの書店、〈バーンズ&ノーブル〉に行くたびにCDコーナーがどんどん小さくなって、代わりにレコード売り場が増えていくのを見て、“本当かよ!”って思うんです。僕も海外でレコードをたくさん買っているから、流失するのはしょうがないですね。外国人のコレクターもよくわかっていますよ。例えばマニアは日本の〈ブルーノート〉の再発盤は東芝じゃなくてキングを買うとか。ジャズレコードは難しいです。いいものはあっても高い、めちゃくちゃに。僕が今、ジャズレコードを買うのに素晴らしいと思うところはストックホルムです。好きな店が2軒あるのですが、どちらもすごく大きくて、一軒、全部見るのに3日はかかる。なので、僕は3日間通ってずっと漁ってたんですよ、妻を置いてきぼりにしてね。その間、彼女はアンティークを買いまくっていたみたいですが(笑)。それで、3日目に店主のオヤジが『ちょっと来い、ちょっと来い!もっと珍しいものがあるが見たいか?』と聞くんです。『見たいです!』と言ったら別に、奥の部屋があったんです。そこはオヤジが寝泊まりしていて、コンロみたいなものもあって、ちょっとした食事までできるようになっている。その横にレコード棚があって、かなりのお宝ものがあったんです。それは3日間通わないと見せてくれない棚。僕のことをちゃんと覚えてくれてたんです。でも売ってはくれるけれど値段がついていない、全部交渉。そういう店が2軒あって、それぞれに3日間かかりました(笑)。北欧にはいいレコード屋がたくさんあるのだけれど、いちばんはストックホルム、その次がコペンハーゲン。オスロはちょっと落ちる。成熟度がまだ足りないのかな。フィンランドのジャズのコーナーは面白かったです。仕事関係の旅でも、何日かエキストラデイを必ず確保して、まわってるんです。昔はイエローページで調べて、地図に印つけてレンタカーや自転車借りたりしてまわりましたが、最近はグーグルマップとかあるのでラクになりました」

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