CULTURE
光と闇を交差させ、新たに蘇ったカール・クレイグの名曲たち。
May 22, 2017 | Culture | a wall newspaper | photo_Pierre Terdjman text_Katsumi Watanabe
美しくも、非常に実験的なデトロイト・テクノ。第一人者の楽曲は、形は変われど先鋭的だった。
Q 新作『VERSUS』は、おもにあなたが発表してきた楽曲を、オーケストラアレンジにした作品ですが、選曲の基準はあった?
クラシックのピアニスト、フランチェスコ・トリスターノに参加してもらって、一緒に選んだ。基準はオーケストラでの再現性だ。オレの曲には再現不可能な曲もあった。プログラミングはできても、生演奏はできないんだって。そこは彼にジャッジをしてもらった。
Q 原曲とクラシックのバージョンの違いは、電子音楽をクラシックにしていく上で起きた?
フランチェスコには、クリエイティブ的な自由をできる限り与えたんだ。新しいことや実験的な試みをやろうとしたとき、自分の権力をかざすことは、制約になってしまうと考えたんだ。
Q フランスのレ・シエクル・オーケストラによる演奏ですね。
フランチェスコから指揮者のフランソワ=グザヴィエ・ロトへ。さらに各演奏者へと伝える過程で、フィードバックがあったら、修正して。
Q しかし、なぜオーケストラだったんでしょう?
子供の頃から聴いてきたプリンスやモータウンの曲には、オーケストレーションが導入されていた。クラシックも、電子音楽とパラレルな関係にあるものだと捉えていたし、取り込むことができるものだと考えていた。
Q 面白かった点は?
コンピューターで作曲するときは、自分が指揮者。感情をシーケンサーに入れて録音すればいい。でもオーケストラとの作業は、人間の「マインド」を相手にすることになる。だからスコア通りに演奏してもらっても、違いが出てくるんだ。
Q オーケストラと制作してよかった点はどんなところですか?
デリック・メイと一緒に音楽を作り始めたとき、「オレたちの音楽が『ブレードランナー』のような映画に使われたらいいよね」とか、そういうふうに自分たちの音楽をイマジンしていたんだ。デリックの「ストリングス・オブ・ライフ」(1987年)にはオーケストレーションが用いられていた。オレにとってはエレクトロニックオーケストラのレコードを作っているようなものだった。オレはやっぱりSF映画のサウンドトラックから強い影響を受けてて。『2001年宇宙の旅』(68年)とか。だから、夢がかなった気分かな。
カール・クレイグ
1969年デトロイト生まれ。テクノを基軸にしながらも、ジャズマンたちとインナーゾーン・オーケストラを結成。また、カラヤン指揮・ベルリンフィル演奏による「ボレロ」など、〈Deutsche Grammophon〉音源を再編集した『Recomposed』を発表している。新作『VERSUS』が発売中。