村上春樹『騎士団長殺し』の装幀が生まれるまで。 | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

村上春樹『騎士団長殺し』の装幀が生まれるまで。

2月24日に発売された、村上春樹の長編小説『騎士団長殺し』。手がけたのは元新潮社装幀室長の髙橋千裕だ。髙橋を中心に、新潮社で30年来、村上春樹を担当する編集者・寺島哲也も交えて、今作の装幀の狙いを聞いた。

左が羊の紋章が入った洋剣。右が大ぶりな柄頭が特徴の和剣。細部まで描きこまれているが、この世に存在しない架空の剣だ。
Q 「シンプルに」という以外にリクエストはありましたか?

髙橋 2度目の打ち合わせで「抜き身の剣」がいいという話もありました。

寺島 その時は春樹さん自ら「こんな感じかな」とスケッチも描いてくれました。あんなことは珍しい。担当して初めてのことかもしれません。

髙橋 最初のラフにはイメージに近い写真を使っていましたが、実際にはこの世にない剣にしたかったのでリアルなタッチのイラストにすることになりました。そのために剣の資料もいろいろと調べましたよ。洋剣は時代ごとに様相が変わります。参考にしたのは十字軍が使ったような太めの剣から、フェンシングで使われるような細い剣に変わっていく端境期の剣です。柄を握る鍔(つば)は十字架のようにまっすぐなデザインが多いのですが、架空の剣なので湾曲しています。

寺島 ラフを見て「ここは、曲げられないのかな」と春樹さんが言った気がします(笑)。

髙橋 そうでしたね。和剣は飛鳥時代のものとしました。でもこの時代は現存する剣が少なく、確か2掉くらいしか残っていないんです。最初に頭に浮かんだのは、正倉院の宝物殿にある剣。それをそのままモデルにしたわけではないのですが、いろいろと資料を当たって今のデザインになりました。

Q 描いたのはイラストレーターのチカツタケオさんですね。

髙橋 チカツさんしかいないと思いました。春樹さんにもチカツさん以外、提案していません。チカツさんにはレイアウトが完全に決まってから依頼をし、こちらのイメージを詳細に伝えてイラストを仕上げていただきました。

Q 洋剣にはよく見ると羊が描かれていますね。

髙橋 これはチカツさんのアイディアです。チカツさんには原稿を渡さずにイラストを描いてもらったのですが、村上春樹さんといえば羊だろう、と紋章にしてくれました。

寺島 この案は春樹さんも「面白いね」と言ってくれましたね。

髙橋 原画は幅1m近くある大きなものです。和剣には飾り紐があったほうがそれらしいんじゃないか、とか。宝石を埋めた柄頭はもうひと回り大きくしよう、とか。春樹さんだけではなく、みんなで意見を交わしながら形にしていきました。