村上隆のコレクション展で現代美術史考。 | ページ 3 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

村上隆のコレクション展で現代美術史考。

〈熊本市現代美術館〉で村上隆のコレクション展が開催されている。日本の現代美術から陶芸まで、戦後日本の現代美術を再検証。「バブルラップ」と名付けられた展示とは?

村上は「スーパーフラット」を説明するためなら、西洋の美術界で膝を折って説明したり、日本の状況をわかりやすく伝えたいと考えていたという。それに加えて村上以後の現代美術界には大きな変革がある。それはコンピュータの導入である。マッキントッシュの初号機は1984年に発表され、ウィンドウズ95でインターネットは一般にも広く普及したのだが、メディアアート的な領域やグラフィックデザインの道具だったのは別として、美術の制作現場に本格的に使われるようになったのは90年代末期である。
グルーヴィジョンズ《チャッピー33》2001年。壁紙はMr.の作品。(c) GROOVISIONS
そんな、コンピュータ以後の作家としてはグルーヴィジョンズ(1993年設立)や青島千穂(1974年−)がこの展示で特に取り上げられている。村上自身もアドビイラストレーターによるベジェ曲線描画が作品の基底をなす。バブルラップの時代から、いよいよスーパーフラットの時代への突入である。コンピュータのフラットなモニタ(ブラウン管、液晶)から美術作品が生まれるスーパーフラット時代の到来である。

2000年〜2005年の村上によるキュレーション展、いわゆるスーパーフラット三部作で取り上げられた作家の展示が続く。奈良美智(1959年−)、Mr. (1969年−)、坂知夏(1973年−)、さらに原型師のBome(1961年−)、そして本展の展示では加藤泉(1969年−)の大型作品に圧倒される。スーパーフラットという潮流が切り開いた道を進むアーティストが出現してくるのを予感させる。
青島千穂 壁紙:《赤目族》2000年、立体:《鶏っ子説得ちゃん》2008年 (c) Chiho Aoshima/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
村上がまだ無名だった頃、先達のアーティストの作品や活動をある種の飢餓感をもって凝視していたことが明らかになり、そこに追いつき追い越していく痛快さもある。その時代の作品を村上自ら収集し、再考察し、今回、「バブルラップ」という名前を与え、展覧会に仕立てた。なので、展示は美術史家が編むように網羅的なものではなく、村上隆のいわば「体験的同時代論」だ。彼のアーティストとしての業の深さを可視化したともいえる。
大谷工作室の陶芸作品。会場デザインは美術監督の磯見俊裕によるもの。
青木亮、安藤雅信、村田森など現代陶芸家作品の膨大なコレクションが展示される。
大谷工作室の陶芸作品。会場デザインは美術監督の磯見俊裕によるもの。
青木亮、安藤雅信、村田森など現代陶芸家作品の膨大なコレクションが展示される。
歩み進めていくと、陶芸のコレクションのセクションに。

「『買うことが可能』な価格帯での真剣な芸術」である生活工芸は発信先があくまでも大衆というところが、オタク文化に似ている」(村上隆)

それゆえ、スーパーフラットとも重ね合わせて考えるポイントが多々あったのだろう。
古道具坂田(東京・目白)の店舗の再現展示。
さらに村上の古美術に対する視点に大きな示唆を与えてくれた古道具坂田の店舗の再現がある。生活工芸がしばしば起点とする民藝の無名性とポストバブルの鎮静した感覚に共通点を見出せるかと村上は考えたが、どうしても違和感が拭えない。むしろ、その鎮静、清貧を指し示してくれたのは古道具坂田だった。

世界の富裕層コレクターやセレブたちを顧客に持つアーティスト村上隆。彼が戦後美術を再検証する旅の果てにたどり着いたのは使用されたコーヒーフィルター、ちょっと破れた雑巾、アジアの労働者が来ていたランニングシャツ、打ち捨てられた椅子…そういったものを取り扱う道具屋だったという。これを物語のオチととっていいだろうか。
(c) 2018 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
Photo by Tomohiko Tagawa

〈熊本市現代美術館〉

熊本県熊本市中央区上通町2-3 TEL 096 278 7500。〜2019年3月3日。10時〜20時(入館19時30分まで)火曜休。12月29日〜1月3日休。入館料1,000円。

村上隆

1962年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。同大学日本画領域初の博士号を取得。有限会社カイカイキキ代表。国際的に最も活躍している現代美術家にして、映画監督、ギャラリスト、美術コレクター。若手作家の育成・プロデュースも手がける。